卵巣がんの治療

卵巣がんは年間約8千人が発症、約4千人が死亡する死亡率の高いがんです。
自覚症状がなく検診での発見も難しいため、進行した状態で見つかるケースが多いのが特徴。
一方で、抗がん剤が比較的効きやすいという特徴もあり、腫瘍部分の切除と化学療法を組み合わせて粘り強い治療が行われます。
抗がん剤の新薬が増え、治療の選択肢も広がっています。

卵巣がん、腫瘍切除と化学療法併用で粘り強く治療

卵巣がんは主に4つ組織型があり、約4割は進行の早い「漿液性腺がん」です。
出血や痛みなど症状が出にくく、発見時には1~4期に分かれる進行期のうち、転移が広範囲に広がっている3、4期のがんが多いのも特徴です。
手術だけで完治することは極めてまれで、術後に抗がん剤の治療を追加するのが一般的。


          
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初回は試験開腹
■手術後の抗がん剤治療の途中で再手術し、初回の手術で残った腫瘍を取り除く「腫瘍減量手術」(IDS)という治療法があります。
1回目の手術は数ミリメートルの卵巣の上皮にあるがん細胞の組織を採取する試験開腹にとどめます。
組織を分析し、卵巣がんのパターンに合わせて薬物治療を開始。
がんを小さくした上で再手術するため、患者への負担が少なくて済みます。

■患者の約半数はがんが卵巣にとどまっている1期と、転移が卵管や子宮など周辺に限られる2期。
腫瘍の完全切除も可能ですが、残りの半数はがんが進行し、手術だけでは根治が難しくなります。
このため、化学療法として抗がん剤のパクリタキセルとカルボプラチンを併用する「TC療法」が採用されます。
7~8割の患者はいったん、がんが消えたように思われますが、残念ながら半年間や1年後に再発することが多くあります。
病院によっては、初回治療の終了後6カ月以上を経て、再発した場合、初回治療と同様にカルボプラチンなどプラチナ製剤を採用します。
6~12カ月以内の再発には主にドセタキセルとカルボプラチンを併用すします。
副作用などを考慮し、他の抗がん剤とプラチナ製剤の併用療法を行うことも可能です。


5年生存率を改善
卵巣がんでは初回治療でがんが小さくなったり消滅したりする割合は70%以上。
進行卵巣がんの症例でも、IDSで残りの腫瘍をすべて切除できた場合、5年生存率の大幅な改善が期待できます。


増える新薬、選択肢広がる
■進行卵巣がん(3期と4期の合計)の5年生存率は30%前後。
再発の可能性が高く、治療が困難ながんの1つとされています。
それでも最近は新たに承認される薬が増加。
粘り強く、治療を続けながら希望を持ち続ける患者も多くいます。

■がん細胞を狙い撃ちする分子標的治療薬「アバスチン」(一般名ベバシズマブ)はその1つ。
すでに大腸がんや非小細胞肺がんなどの治療薬として使用されていました。
厚生労働省は2013年11月、卵巣がんにも効能や効果があると承認しました。

卵巣がんでは初めての分子標的治療薬で、がん細胞への栄養供給(血管新生)を絶つ効果を持ちます。
標準的化学療法のカルボプラチンとパクリタキセルに加え、アバスチンを併用・継続した場合の有効性を調べたところ、進行がんが再発するまでの期間を延長させる効果が出ました。
抗がん剤の治療効果を高め、再発を遅らせることで、その後の治療の選択肢もさらに広がっています。

■新たな治療法に向けた研究も進んでいます。
静脈に注射するよりも高濃度の医薬品を腹腔内に注入する手法を実用化するための臨床研究が進んでいます。
腹腔内に注射液を取り込むことの可能な装置をあらかじめ埋め込むことで、より効率的に治療ができる可能性が期待されています。

■手術時の腫瘍を使い、遺伝子の変異などを調べ、抗がん剤の効きやすさとの関連についても研究している大学もあります。
卵巣がんは治療薬の種類は豊富ですが、現時点で患者のがんのタイプに合わせて薬を選択する方法は確立されていません。
患者に応じた治療薬剤の選択ができれば、長期生存の可能性の広がりが期待できます。

私的コメント
治療の選択肢が多いということは、抜きん出た治療法が確立されていないということでもあります。


出典 日経新聞・朝刊 2014.1.30
版権 日経新聞