膀胱がんの内視鏡治療

全摘出から温存へ挑戦、内視鏡で切除 深部もピンポイント

推定患者数が約6万4千人の膀胱がんは男性が女性の3倍を占め、60歳以上に多い。
大半は内視鏡手術でがん細胞を取り除くことが可能だが、進行した場合は膀胱を全摘出するのが一般的だ。日本経済新聞社が「日経実力病院調査」では、深部でもがん細胞だけ内視鏡で切除したり、低量の放射線抗がん剤の投与を組み合わせたりして、患者の負担を軽減しつつ膀胱を温存する治療法に挑む姿が見られた。

血尿などの症状がみられる膀胱がんは、内側を覆う組織の表面にできる「表在性」と、内部深く筋肉層にまで達した「浸潤性」などに分けられる。

表在性の場合は死に至る危険性はほとんどなく、尿道から特殊な内視鏡を入れて確認しながら先端に付いた電気メスで腫瘍を切除する。
転移や広がりやすい特徴がある浸潤性は、電気メスで完全に切り取るのは難しく、部分切除では再発の恐れもあるため、膀胱を全摘出するのが一般的だ。

今回の調査で2010年7月から11年3月に膀胱がんの「手術あり」が261例と全国で最も多かった県立がんセンター新潟病院新潟市)では表在性だけでなく、浸潤性のがんの一部にも内視鏡手術を行う。
筋肉層の深くまで電気メスで切り取る方法だ。
同病院泌尿器科の北村康男部長は「筋肉層でのがんの広がりや進行度によって判断する。膀胱の温存を望む患者は多く、できるだけ希望に沿うよう努力する」と話す。

内視鏡手術後も切除した周囲にがん細胞が残っている場合があり、同病院では切除した部分に粘膜ができる1~2カ月後に検査を実施。がん細胞が確認されれば再び内視鏡手術をする。

表在性の膀胱がんは再発が多い。
再発防止のため、結核予防に使われるBCGや抗がん剤を膀胱内に注入する治療が全国で実績を上げている。
同病院では初手術から5年間の再発率は5割超。
北村部長は「膀胱内に小さながん細胞が多数見つかった場合にもBCGを注入する」と説明する。

一方、膀胱の全摘出手術は、骨盤内のリンパ節のほか、男性は前立腺と精のう腺、女性は子宮を一緒に摘出する。
男性は勃起不全になる可能性が高く、射精もできなくなる。
尿を排出する尿路の再建手術も必要で、再建後は腸閉塞などの合併症が起こる恐れや排尿管理など患者は大きな負担を強いられることもある。
同病院の全摘出手術は「再発を含めて全体の1~2割」(北村部長)という。

今回の調査で、泌尿器のがん切除で、患者の負担が軽い約3~4センチと最小限の開腹(一般的な全摘出手術の傷は18~20センチほど)での内視鏡手術が先進医療として認められている病院が全国で7施設あった。

そのひとつ、東京医科歯科大病院(東京・文京)では、浸潤性のがんでも膀胱を温存しようと、放射線照射や内視鏡手術を組み合わせた治療に取り組んでいる。
がんがまとまった場所にあるなど一定の条件を満たした上、線量を従来の3分の2程度に抑えた放射線治療と低用量の抗がん剤投与を約4週間続けて病巣がほぼ消えた患者が対象。小さくなったがん細胞を内視鏡手術で部分切除し、膀胱の機能は維持する。

低量の放射線治療は通常と比べて頻尿などの副作用がほぼ抑えられるほか、小開腹で、腹腔(ふくくう)鏡手術のような二酸化炭素(CO2)の注入もないため合併症が少なく回復も早い。

これまで実施した約50例の5年後生存率は100%で再発もないという。
同大大学院腎泌尿器外科学の木原和徳教授は「全摘出の対象とされる浸潤性のがん患者の4割ほどは膀胱を温存できる」とみる。

ただ、この治療法は、患者に適するかどうかを判断するために、がんの形状や病理の診断で高い精度が求められ、実施施設が限られている。

同病院では全摘出手術も小開腹で対応しており、木原教授は「高齢化が進む日本では、今後さらに身体への負担が少ない治療法が求められる」と話している。


再発防止に抗がん剤使用 副作用抑える新薬も

膀胱がんの化学療法には通常2種類以上の抗がん剤が使われる。
遠隔転移や再発を予防するため、膀胱の全摘出手術後に併用することが多い。

メソトレキセートとビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチンの4種類を組み合わせたM―VAC療法が04年1月に膀胱がん向けの治療薬として保険適用され、主流となった。
ただ吐き気や貧血、白血球減少など副作用が強く、患者の負担が重かった。
このため、08年11月に副作用が抑えられる新しい抗がん剤、ゲムシタビン(販売名ジェムザール)が国から承認されると、導入する医療機関が相次いだ。

今回の調査で「手術あり」が110例以上の施設で「手術なし」が93例と3番目に多かった千葉県がんセンター(千葉市)はゲムシタビンとシスプラチンを使うGC療法を、全摘出手術後だけでなく前にも行っている。

前立腺センター・泌尿器科の植田健部長は「術前に抗がん剤を使うと副作用で患者の体力を奪うリスクもあるが腫瘍を小さくして再発を防ぐ効果が期待できる」と話す。

膀胱がん向けの抗がん剤としては、乳がんなどに使われるタキソールも注目されているが、現在は保険適用外のため患者の費用負担は大きくなる。
植田部長は「抗がん剤が効く場合もあれば、効かない場合もある。GC療法で効果が表れない場合は、患者の病状を考慮し、相談し希望があればタキソールとゲムシタビンを組み合わせたTG療法を施す」と説明する。