肺がん治療に内視鏡が普及

肺がん治療、内視鏡が普及 出血抑え手術の安全性高まる

日本人のがんによる死因のトップである肺がん。
喫煙者に多いが、たばこを吸わない人でも発症する。
患者への負担が少ない手術方法として、内視鏡の一つ「胸腔鏡」を活用した手術が普及しつつある。
手術後の患者の生活を重視し、また手術の安全性を高めるべく、各病院が知恵を絞っていることも分かった。

国立がん研究センターによると、2015年に肺がんで亡くなった男女は7万4378人。
1985年に約2万9千人だったのが、95年には約4万6千人、2005年には約6万2千人と年々増えている。
がん全体の5年生存率が男女計で6割を超える中、肺がんは男性が27.0%、女性が43.2%と、命を救うことが難しいがんの一つだ。
 
肺がんは「小細胞肺がん」と、腺がんなどを含む「非小細胞肺がん」に分かれる。
手術を中心とする治療を受けるのは、非小細胞肺がんの中で、がんの進行度を4段階に分けたときに早期の1~2期に該当する患者。
さらに進行した3A期の患者も手術が適用されることもある。

画面見ながら操作
国立がん研究センター中央病院(東京)では、胸腔鏡によりモニターに映し出された臓器を見ながら手術に必要な詳細な情報を得つつ、切開部分からも臓器を確認できる「ハイブリッド・バッツ」と呼ぶ手術法に力を入れている。
 
手術のため患者の体を2カ所切開する。
1つ目は7センチほど切開し、手術器具をそこから入れて、腫瘍を切除する。
もう1つは5センチほど切ってカメラを入れる。
約15年前、この手術方法で15~17センチ切っていた。
経験を重ね、今は7センチほどになり、患者の負担は軽くなった。
 
胸腔鏡手術には、すべての操作をカメラで映し出されたモニター画面だけを見て行う「完全鏡視下手術」と呼ばれる方法もある。
完全鏡視下手術の方が、切開部分は3センチ程度とさらに小さくて済むが、同病院はハイブリッド・バッツにこだわりをみせる。
7センチの切開部分から指が入るので、触診で腫瘍を探せるのが理由の一つだ。
 
さらに、手術器具が扱いやすく、臓器や血管を縫ったり縛ったりしやすいので、切除部分からの空気漏れなどの処置がしやすい。
空気などを外に出す「胸腔ドレーン」と呼ぶチューブを抜けないと入院日数が延びるので、きちんと手術を終えられることを重視する。

臓器を極力温存
患者の負担減は手術時の傷口を小さくすることだけではない。
肺は右肺が3つ、左肺が2つの「肺葉」に分かれ、さらに複数の「区域」で構成する。
同病院は区域切除に力を入れ、肺をなるべく温存する。
コンピューター断層撮影装置(CT)による診断画像から適否をいかに見極めるかが重要だという。
 
一方、姫路医療センター兵庫県)は、完全鏡視下手術に力を入れ、その割合は手術件数の9割弱に達する。
 
完全鏡視下手術はモニター画面だけを見て手術をするため安全性が懸念されてきた。
思わぬ出血が起きると、モニター画面が真っ赤になって何も見えなくなる恐れがあるからだ。

だが、呼吸器センター部長は「独自に出血をコントロールする方法を編み出し、安全性はかなり向上した」と強調し、「出血で命を落とした患者はいない」と自信をみせる。
彼らは手術器具を使って、どこをどう押さえるなどすれば効果的に止血ができるかなど研究を重ね、その方法を確立。学術雑誌でも紹介され、他病院の手本になっている。
 
手術中の予期せぬ出血にも、慌てず、焦らず手術を続けられるからこそ、ベテラン医師の指導を受けながら若手医師が技術を身につけることができる。
胸腔鏡手術は手術中の映像が残るので、定期的にカンファレンスを開いているが、「実地訓練を重視し、基本的には手術中に教える」という。
若手医師が修業を積む場所としても注目を集めている。

免疫薬登場、広がる選択
肺がんの薬物治療を巡っては、様々なタイプの抗がん剤が登場し、治療の選択肢が広がっている。
特に患者数で80~85%を占める腺がんなどの非小細胞肺がんでは、免疫薬が登場し、薬物治療の進化が著しい。
 
非小細胞肺がんが最も進行した4期の患者でみると、薬物治療は大きくみて4つに分かれる。
免疫にブレーキをかける細胞のたんぱく質が働かないように作用し、がんへの攻撃を促す「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ぶ「オプジーボ」と「キイトルーダ」はこの4パターンの中で使われ方が違う。
 
オプジーボは従来の抗がん剤による治療が終わってからでないと使えない。
いわば2番手以降の選択肢だが、キイトルーダは特定の遺伝子異常がなく、50%以上のがん細胞に特定のたんぱく質ができていることを条件に最初の治療から使える。
 
患者数で15~20%を占める小細胞肺がんは抗がん剤の効き目が高いとされるが、長らく新薬は出ていないとい。
だが、薬事承認に向け免疫薬の臨床試験が行われており、承認されればインパクトは大きいだろう。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.7.31