4次元放射線治療

4次元放射線治療… 呼吸など がんの動き予測

がんを放射線で治療する際、患者の呼吸などでがんの位置が微妙に動くのに合わせ、がんに集中的に照射する機器の開発が進んでいる。多方向から立体的(3次元)に照射するのに加え、時間による位置の変化も計算することから「4次元放射線治療システム」と呼ばれる。(藤田勝)



体をベッドに固定した状態で、まったく動かないがんは、脳腫瘍などごく一部に限られる。
肺がんなど多くのがんは、呼吸による肺や横隔膜などの動きに伴って位置が変わる。
肺がんは場所によっては3センチ以上、肝臓は1センチ程度位置が変わるという。
また、前立腺がんは膀胱の尿量の変化などで動く。

放射線治療は、0・5ミリ~1センチ程度の誤差で照射できるまで精度が上がったが、がんそのものが動けば、性能を十分発揮できない。

先端医療センター(神戸市)放射線治療科の小久保雅樹部長は「精度の高い治療をしたつもりが、がんが動いたせいで、十分な照射がされておらず、再発率が高くなることがある。がんの動きに合わせられないならば、動く範囲全体に広く照射しないといけない」と指摘する。

そこで、がんの動きに合わせて放射線をあてる4次元治療が期待されている。

同センターと京都大病院、三菱重工のグループが開発した4次元放射線治療機器は、高さ約3メートルの大きな輪の中心に、治療台に乗った患者が横たわる。
輪の頂点には、治療用放射線の発射口がある。

大きな輪の内側が左右に回転する一方、装置全体は水平方向に回ることで、様々な角度から放射線を照射できる。

最大の特徴は、放射線の発射口が、がんの動きに合わせて首を振るように動くことだ。
照射を始める前に、左右2方向からのエックス線で体内を透視して、がんの位置を把握する。
これに、赤外線でとらえた腹部の動きの情報を合わせ、呼吸に伴うがんの動きの予測モデルを作る。

照射は、患者の呼吸に合わせ、予測モデルに従って行う。
もし、がんがモデルから外れた動きをした場合は、照射が自動的に止まる。必要ならばモデルを作り直す。

京大病院と先端医療センターは2011年9月から、5人の肺がん患者に治療を行った。
1人に30~40分かけて6~8方向から照射し、がん以外の正常組織への照射量は、従来よりも2~3割減った。

六つの関節で自在に動くアームを持つ放射線治療機器「サイバーナイフ」も、同様のがん追尾システムを持つが、先端医療センターグループの機器は、患者の体を透過した放射線を画像として記録し、がんに放射線が十分に当たっているかひと目でわかるのが特長だ。

別方式の4次元治療もある。北海道大学病院では、がんの動きをエックス線で追尾し、がんが所定の位置に来た時だけ照射する方式を開発している。連続照射する方式よりも時間はかかるが、精度は高い。

4次元放射線治療について京大病院放射線治療科の平岡真寛教授は「肺がんで効果を検証しながら、肝臓がんにも利用を検討している。この治療は特殊なものではなく、将来、がんの放射線治療に広く導入されるべきだ」と話している。

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出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2012.2.25
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