治療法 ともに選べるように

治療法 ともに選べるように

セカンドオピニオンは80年代にアメリカで始まった仕組みで、保険会社が複数の治療の費用対効果を比較し、保険の費用を削減するために導入したものと言われている。
結局、医療費削減効果は見られなかったが、患者の自主性を重んじるアメリカで急速に広まった。
先日、わたしたちのグループは、がん治療の現場でも広まっているセカンドオピニオンについて、関連する実態調査と分析を放射線治療装置メーカーのバリアン社と共同で行った。
対象者は、特定の臓器のがんの診断を受け、診断時期を覚えている1032人。
子宮頸がん、前立腺がん、肺がん、頭頸部がん、食道がんなど、放射線治療単独あるいは抗がん剤との併用で、手術と同等の効果が期待できるものが中心だ。

がんの種類を問わず、約9割は医師から手術を推奨され、ほとんどそのまま治療を受けていた。
一方、放射線治療は2割強が受けるに過ぎなかった。

たしかに、自分自身が治療方針に積極的に関与したいのは3割に過ぎず、すべて医師任せの人が3割もいた。

セカンドオピニオンはほぼ全員が知っていたが、半数は名前を知っているに過ぎず、実際に受診をしたのは2割にとどまった。
ただ、乳がん前立腺がんの患者では受診経験者が比較的多くいた。
また、放射線治療を受けた患者は治療方針に積極的に関与する人が多く、セカンドオピニオンの受診率も高い傾向にあった。

大きな問題は、患者の意向が十分満たされていない点だ。
複数の治療法(医師が勧めるもの以外の治療法)を知りたいと思っていた患者の割合は7割強だったが、実際に他の治療法に関する説明を受けたと答えた患者さんは4割強に過ぎなかった。

がん患者は治療法の選択肢について多くの情報を得たいと思いながら、実際には選択肢が提示されていない実情が明らかになったと思われる。

放射線治療を受けた患者の満足度は手術患者より高いという結果も出ている。
セカンドオピニオンを含め、十分な情報をもとに判断することが大切だ。
患者さんが医療者とともに治療法を選ぶ体制が望まれる。

執筆
東京大学病院・中川恵一 准教授
参考・引用一部改変
日本経済新聞・夕刊 2019.6.5