粒子線治療

粒子線治療 小児がんなど保険適用へ 通常の放射線より体に影響少なく

「粒子線」と呼ばれる特殊な放射線を使ってがんを狙い撃ちにする治療の一部が2916年4月から健康保険の適用になった。
対象は小児がんと、手術が難しい骨や筋肉などにできた腫瘍だ。
従来は国の先進医療制度の下、約300万円を自己負担していたが、大幅に軽減される。
粒子線の治療施設は国内に14カ所あるが、保険適用で新設が進む可能性も指摘されている。

がんの粒子線治療に使う放射線は陽子線と重粒子線だ。
今回、保険適用になるのは小児がんの陽子線治療と、手術が難しい骨や筋肉などにできた骨軟部腫瘍の重粒子線治療だ。

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通常の放射線治療がエックス線を使うのに対して、陽子線は水素の原子核重粒子線では炭素の原子核をそれぞれ加速して照射する。
体の表面近くで最も強いエックス線と異なり、ある程度深いところで強度が最大になる。
定めた目標で止まる特徴もあり、健康な臓器や組織への影響を抑えながら、病巣部をピンポイントで攻撃できる。
 
粒子線治療はこれまで、転移のない臓器などのがんに対して「先進医療」という枠組みが適用されてきた。治療に必要な検査代や入院費は保険の対象だが、残りは患者の自己負担だった。
健康保険が適用されれば自己負担は原則3割になる。
さらに負担を軽減する仕組みである「高額療養費制度」が使える。
 
保険適用を受けるには治療の安全性、有効性だけでなく、患者が十分に治療の機会を持てる普及性、費用対効果の計4項目をクリアしないといけない。
今回は、放射線科の医師らでつくる日本放射線腫瘍学会が厚労省に提出した治療データなどを参考に、保険適用が決まった。

他のがんは先進医療継続
同学会は扁平上皮がんを除く頭頸部がんや、既存の治療が効かない肝臓がん、肺がんについても保険適用を要望していたが、厚労省は見送った。
既存の治療法を上回る有効性や安全性を示せない、有効性を示す十分な質の文献がなかったなどと判定されたためだ。
 
2種類のがん以外の大半のがんは、引き続き先進医療が適用される。
今後は学会主導で、既存の放射線治療と比べた有効性などを示すデータを集めることになった。
次回の診療報酬改定までの2年間でエビデンス(科学的根拠)を集め、保険適用を目指す。
 
手術が難しい肺がんは保険適用とならなかったが、粒子線治療を受ける患者も増えている。

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粒子線が普及してもエックス線による治療がなくなるわけではない。
放射線治療の98%はエックス線で、多くのケースで良好な効果が出ている。
 
エックス線治療も進化しており、IMRT(強度変調放射線治療)など照射部位を絞り込む技術なども開発されている。
粒子線治療を希望する患者は主治医とよく話し合って利点と課題などを検討したい。

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陽子線で70億円、重粒子線で100億円 各地で計画、建設には巨費
粒子線治療を実施する国内施設は、大学病院や各地のがんセンターなどに計14カ所ある。
内訳は陽子線が10施設、重粒子線は5施設で、兵庫県立粒子線医療センターは両方の治療に対応している。このほか、2018年3月の運用開始を目指して大阪府で施設の整備が進むなど、各地で計画が進行中だ。
 
粒子線治療施設は大がかりな機器が多く、多額の費用がかかる。
01年設立の兵庫県立粒子線医療センターは、周囲94メートルの環形の加速器を使う。
装置と建物を含めた施設全体で約280億円かかった。
加速器の小型化が進んだ現在でも建物を含む導入費用は陽子線で70億円程度、重粒子線で100億円以上かかるのが一般的だ。
 
コスト低減を目指す動きもある。
放射線医学総合研究所東芝重粒子線治療向けに新しい装置を作った。
超電導磁石を採用することで、小型・軽量化を実現した。
また、治療の準備時間などを短くして多くの患者に対応できるようにすれば、効率化につながる。
 
粒子線治療施設が増えれば、患者が治療を受けやすくなる一方、精通した医師や技術者も必要だ。人材育成も重要になってくる。

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参考
日経新聞 2016.3.20


<関連サイト>
放射線の新しいエース・・・重粒子
http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/radiant01/radiant01_05b.shtml
脳腫瘍 / 頭頸部(口・のど・鼻・副鼻腔)にできるがん / 肺がん / 肝臓がん / 子宮がん / 前立腺がん / 骨や筋肉のがん / 頭蓋骨のなかの頭蓋底のがん / すい臓がん / 直腸がん /食道がん / その他の固形がん
(すでに他の部位に転移しているがん、またはその傾向の強いがんは、炭素イオン線治療の適応にはならない)

重粒子線治療について知りたい方へ
http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/radiant01/radiant01_03a.shtml
重粒子線はエネルギーの強弱に応じて、ある深さで急に強くなりますが、重粒子線のピークをがんに合わせることにより、正常細胞への影響は最小限に抑えられます。