放射線治療の大原則はがん病巣に放射線を集中させて、周囲の正常な臓器の被曝を抑えることだ。
完全に実現できれば、がんに無限量の放射線を照射しても副作用はゼロになるから、100%の確率でがんを根絶できることになる。
この理想を実現するには、治療の直前、あるいは治療中に、病巣と周辺の臓器の画像を撮影して、毎回の放射線照射の精度を高めることだ。
東大病院の放射線治療部門は、この「画像誘導放射線治療」のトップランナーとなってきた。
1980年代に、世界初となる「同室型コンピューター断層撮影装置(CT)」を開発した。
放射線治療装置と位置決め用のCTを向かい合わせに配置したもので、CTの撮影後に寝台が180度回転して、自動的に位置決めが完了できる。
さらに、放射線治療用のビームそのものでCTを撮影する「超高圧X線CT(MVCT)」を世界ではじめて臨床応用した。
同室型CTと違い、寝台を回転させる必要がなくなり、位置の精度が向上した
こうした画像誘導放射線治療の歴史を受け継いで、東大病院放射線治療部門では、極めて精度の高い放射線治療を提供している。
とくに、前立腺がんの「定位放射線治療」では、早期から進行したものまで、たった5回の通院で治療が完了する。
すでに600人以上がこの治療を受けており、良好な治療効果を確認している。保険医療で、高額療養費制度も利用でるすら、自己負担額も限られる。
多くの病院は40回程度の照射回数を採用しているので5回照射は例外的。
愛知県や長野県など地方から「通院」する患者も少なくない。
執筆 東京大学・中川恵一 特任教授
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.7.21