進歩する放射線治療技術

がん組織のみ正確に照射  放射線治療技術進む、機能や形を温存


がんの三大治療法のひとつ、放射線治療が注目されている。
正常な組織を避けて、がんだけに強いエックス線を当てられるようになり、がんの種類によっては根治できる治療だからだ。
コンピューターやロボットの技術の進歩で高精度な治療装置も普及してきた。

手術と同等の成績
従来は場所によっては数センチメートル動くことを見越して照射範囲を広くとるのが普通だった。
がん以外の正常な組織にも放射線が当たるため、がんに十分な線量を照射しにくく効果も低くなっていた。
<私的コメント>
肺や肝臓など呼吸で動く臓器のがんをいかに正確にとらえて照射するかが、放射線治療の大きな課題のひとつでした。しかし、最近は動く臓器のがんをリアルタイムで追尾して放射線を正確に照射することが出来るようになりました。

■もうひとつは、トモセラピーという装置で放射線の強度をコンピューターで制御する強度変調放射線治療(IMRT)。
1本の放射線ビームの中に放射線の線量の高い部分と低い部分を作り、多方向から当てる。
がんの形に合わせて照射できるのが特徴だ。
骨盤の内側など臓器がたくさんあり、がん以外の正常な組織への照射をできるだけ減らすときに威力を発揮する。
いずれもがんだけに十分な量の放射線を集中的に照射する方法で放射線治療で十分な効果が出るがんが増えた。

■6月下旬には京都大学病院で、呼吸で動くがんを追尾し、集中照射するIMRTを組み合わせた新しい治療も始まった。
 
三菱重工業と動くがんの追尾治療装置を開発し、新装置の開発も進めている京大ではこれまで治療しにくかった難治性のがんにも放射線を十分照射できるようになった。
抗がん剤や手術と組み合わせて根治を目指せるという。

■がん患者の7割近くが受けている米国などには及ばないが、日本でも放射線治療を受ける人は増加中。
日本放射線腫瘍学会によると、2005年で放射線治療を受ける人はがん患者の約25%だったが、15年には約4割になると推定。
ただ、もっと放射線治療を選択してもよいケースがあるはずと指摘する専門家もいる。

■日本では小さい早期の肺がん(非小細胞肺がん)は手術が多いが、放射線の治療成績を見ると5年生存率などのデータは手術とほぼ同等だ。
子宮頸がんも日本では手術が多いが放射線治療でも成績はほぼ同等という臨床研究データがある。
欧米では放射線治療が主流だ。
前立腺がんも手術と成績に差はなく、尿漏れや、男性機能を失うことが少ないという利点で放射線治療が欧米ではより多く選択されている。

多くが健保対象に
臓器の機能を温存できる特長を生かした治療も進む。
手術と組み合わせて乳がんの乳房温存療法や、抗がん剤と組み合わせた食道がんなどでも効果が高いことがわかっている。
直腸がんでは、手術前に放射線治療でがんを小さくして切除範囲をより小さくして人工肛門を防ぐためにも利用できる。

■日本は手術の技術水準が高いため、がん治療も手術中心に進められてきた。
だが照射技術の進化でがんの種類によっては放射線治療の利点も大きい。
多くが健康保険の対象で、通院治療も可能な場合も多い。

■ただ放射線治療の技術水準は施設によってばらつきがある。
先進医療の陽子線や重粒子線治療放射線治療の一種だが、自己負担額は高額だ。
通常の放射線治療で十分効果があるがんまで治療している例もあるという。

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出典  日経新聞・夕刊 2013.8.2
版権  日経新聞