前立腺がん、治療法多く 生活の質重視 経過観察も
高齢男性を中心に年約8万人が診断を受け、がん全体で4番目に患者数が多い前立腺がんは治療の選択肢が多岐にわたるのが特徴だ。
手術支援ロボットの普及が進むほか、進行が遅いため積極的に治療せずに経過観察も多い。
日本経済新聞の実力病院調査で症例数が多かった病院は、年齢や進行状況、後遺症の有無などを考慮しながら「生活の質」(QOL)を重視して治療方法を選んでいる。
前立腺がんは転移がなければ血液検査などの結果から低、中、高リスクの3段階に分類される。
治療法を選ぶうえで、このリスク分類が目安になる。
手術は低~中リスクが主な対象とする病院が多い。
かつては75歳以下を手術対象の目安とされてきたが、近年はより高齢でも仕事や運動を続けるなど活動的な患者であれば、手術を勧めこともある。
長生きする高齢者が増えるなか、手術で根治を目指すメリットが大きいためだ。
手術対象の拡大に貢献したのが手術支援ロボット「ダビンチ」。
ダビンチを使った手術は腹部の6カ所に小さな穴を開けて体内にロボットアームと一体となった手術器具や内視鏡を挿入。
医師は内部を拡大した3D映像を見ながら、ロボットアームを動かして患部を切除する。前立腺付近は神経が張り巡らされているが、ロボットアームでわずかな動きを制御でき、より細かい操作ができる。
ダビンチを使った手術は出血が少なく、ほとんどの患者で輸血の必要もない。
開腹手術などに比べて体への負担は非常に小さい。
ダビンチによる手術は12年には健康保険の適用対象となり、全国の病院で導入が進んでいる。
前立腺の摘出手術には、尿失禁や勃起障害などの後遺症が出るリスクがある。
がんの状態によっては神経を残して後遺症のリスクを下げる方法もあるという。
前立腺がんは進行が非常に遅いことが多い。
低リスクの段階なら特に治療はせず、定期的な検査で様子をみるのが一般的だ。
中リスク以上で積極的な治療をする場合、放射線治療とホルモン抑制療法の選択肢があり、併用もある。
放射線治療は体内から放射線を当てる小線源療法と、体外から放射線を当てる体外照射の2つに分かれる。
小線源療法は小さなチタン製カプセルに入った放射性物質を前立腺に刺し込む治療で、数日の入院で済む。
体外照射はコンピューター断層撮影装置(CT)検査の結果からがんの形に照準を合わせる「強度変調放射線治療(IMRT)」などの種類があり、2~3カ月かけて35回前後の外来通院が必要となる。
前立腺がんは男性ホルモンで成長し、ホルモンがなくなると死滅する。
ホルモン抑制療法はホルモンの分泌を減らしたり、作用を阻害したりする治療法で、高リスク以上や転移がんでも効果が期待できる。
だが肥満や糖尿病の悪化、筋力低下などの副作用もあり、日常生活への影響が大きい。
治療法の選択は、がんの悪性度だけでなく、年齢や仕事の有無、男性機能維持の希望などを踏まえ長所と短所を総合的に判断する必要があり、個人差が大きい。
選択肢も多いため、他の施設の医師の意見を聞くセカンドオピニオンを希望する患者も多いのも前立腺がんの特徴だが、じっくり検討し十分に理解し納得した上で治療法を選択すればよい。
重粒子線保険適用に
前立腺がんは高齢化や食生活の欧米化で増加傾向にあり、PSA(腫瘍マーカー)検査の普及で早期発見も多い。
国立がん研究センターが8月に発表した最新の3年生存率は99.2%、5年生存率は98.6%といずれも高く、適切に対処すれば、がんの進行よりも先に寿命を全うすることも少なくない。
2018年4月には全額自己負担の先進医療だった重粒子線や陽子線を使った放射線治療が健康保険の適用対象となった。
大規模装置が必要なため、全国でも実施施設は約20カ所に限られるが、新たな選択肢として注目されている。
新薬も相次いでいる。
ホルモン抑制の新薬として14年に「イクスタンジ」「ザイティガ」が登場したほか、19年には「アーリーダ」も販売された。
16年発売の「ゾーフィゴ」は放射性物質を含む新薬で、骨に転移がある患者が対象になる。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.10.28