前立腺がんに相次ぎ新薬

前立腺がんに相次ぎ新薬 ホルモン療法後に活用

食の欧米化や高齢化の進展などから日本人男性でも急増している前立腺がんに新たな治療薬が相次いで登場した。
転移や再発で症状が進み、男性ホルモンを抑える治療が効かなくなった患者向けだ。
これまでは1種類の抗がん剤しかなかった治療の幅が広がると期待が集まっている。

前立腺は膀胱の下にあり、尿道を取り囲んでいる。
形や大きさは栗の実に似ている。
前立腺がんの患者数は急激に増えており、毎年1万人超がこの病気で亡くなっている。
発症や病状の進行に男性ホルモンが関与しているのが知られている。

■広がる治療選択肢
「ホルモンを抑える治療が効かなくなってきたので、抗がん剤の治療に移りましょう」。
これまで症状が進んだ前立腺がん患者で標準的な方法だったこうした手順が、今後は大きく変わりそうだ。
男性ホルモンを抑える新たな製剤が使えるようになったためだ。
新薬の登場で、治療の選択肢が広がった。

今年(2014年)に入って発売されたのは、ホルモン製剤のエンザルタミド(商品名イクスタンジ)とアビラテロン酢酸エステル(同ザイティガ)、抗がん剤のカバジタキセル(同ジェブタナ)の3種類だ。
いずれも従来のホルモン療法では効果がなくなった「去勢抵抗性前立腺がん」に効果があるとして国の承認を得た。

前立腺がんは転移がない場合は手術でがんを取り除いたり放射線治療をしたりする。
すでに転移している患者は、男性ホルモンを抑えてがんを小さくするホルモン療法を実施することが多い。
手術後にがんが再発した患者や高齢で手術の負担が大きい患者も同様だ。

しかし、ホルモン療法は何年か続けると効果がなくなってくる。
こうした患者は抗がん剤治療に移るが、これまで抗がん剤ドセタキセル(同タキソテール)の1種類しかなかった。
治療の選択肢がなく、効きにくくなると、痛みを和らげる緩和治療や対症療法以外に打つ手がなくなってしまっていた。

ホルモン療法の効き目がなくなるのは、男性ホルモンが精巣以外でも作られているのが大きい。副腎のほか、がん細胞自身も男性ホルモンを作っているという。
 
新ホルモン製剤は、男性ホルモンががん細胞で作られるのを防いだり細胞核に取り込まれるのを妨げたりして、がん細胞が増えないようにする。
従来の薬だけでは防ぎきれない男性ホルモンの働きを遮断し、がんの進行を抑える。

■高い薬価がネック
2つのホルモン製剤は使い方で異なる点がある。
アビラテロンは抗がん剤ドセタキセルの投与前でも使えるが、エンザルタミドは投与後でないと使えない。
ただ、ホルモン製剤は抗がん剤に比べると副作用が少ない。
 
このため、投与前でも使えるよう製薬会社が変更を国に申請中だ。
これが認められれば、既存のホルモン療法が効かなくなった段階で、新ホルモン製剤のいずれかを使って治療にあたることになりそうだ。

しかし、新ホルモン製剤が効かなくなるケースも出てくる。
その際は抗がん剤投与に移り、既存のドセタキセル、新しく出たカバジタキセルの順で使う。
新薬はがん細胞内のたんぱく質と結びつき、がん細胞が分裂して増えることを妨げる。
ドセタキセルにみられる手足のしびれなどの副作用は少ない一方で、赤血球や白血球などが減るケースがある。
 
現時点では、いずれの新薬も発売されたばかりで、組み合わせて使う場合の効果がどうなるかのデータの蓄積は少ない。
去勢抵抗性前立腺がんは患者によって同じ治療でも効き目が異なることも多い。
適切な時期に治療法を切り替えることが大切だが、どのタイミングで薬を切り替えるかは、これから解明していく課題だ。

また、3週間に1回投与するカバジタキセルの薬価は約60万円、2種類のホルモン製剤も1カ月分が40万円前後するなど新薬はいずれも高価だ。
健康保険が適用されるとはいえ、長期間使い続けるとなると医療費負担も重くなる。
早い時期から使って延命効果があるかはまだわからない。
使い始めるタイミングはよく考えるべきだ、といった意見もある。

日本の前立腺がん患者は1975年から2010年までに約27倍に急増した。
20年には胃がんを抜いて男性のがんで最多になるとの予測もある。
新薬の登場で広がった患者の選択肢をより生かすためにも、治療データを蓄積していくことが大切になる。

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出典
日経新聞・夕刊 2014.9.26



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    京都・下鴨神社 境内 2015.11.15 撮影
糺ノ森(ただすのもり)・・・広さ12万4000平米。清らかな小川が流れ原野の姿をとどめる森。