歯周病病治と肝炎・糖尿病

歯周病病治せば肝炎・糖尿病も改善

全身疾患と関連 解明進む
歯がグラグラして最終的には抜けてしまう歯周病は、成人の多くが患っている炎症性の病気だ。
虫歯と並ぶ歯科の二大疾患だが、影響は口腔内にとどまらない。
これまでの研究から、肝臓病や心臓病、糖尿病など全身の疾患とも密接に関係していることが分かってきた。歯周病を治療すれば、こうした全身疾患の症状改善にもつながる。

歯周病は歯と歯茎の間に細菌の塊である歯垢や歯石がたまり、細菌感染を引き起こす。
この結果、歯の周りに炎症が起こる。
初期は歯茎が腫れる歯肉炎、進行すると歯を支える骨が破壊される歯周炎と呼ばれる。
軽い症状まで含めると日本人の成人の約8割が歯周病にかかっている。
自覚症状がないまま進行し、放置すると歯が抜け落ちてしまう。さらにその影響は全身に及ぶ。

□   □

肝炎と飲酒は関係が深いが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)はアルコールをたしなまない人でも肝臓に脂肪が蓄積する。
これまでも食事療法や薬物投与によっても症状が改善しない患者が一部いることが知られていた。
こうした患者に歯周病治療を施せば、NASHの症状改善につながる可能性がある。

この可能性に取り組む医療施設も出て来た。 
歯科医が歯磨きの方法を指導したり、歯に付いた歯石を取り除いたりする。
歯周病の症状が進んだ人では、歯茎を局所麻酔して、歯根と呼ばれる歯茎で隠れた部分に付着した歯周病菌を除去する。
こうした治療によって肝機能が改善するか詳しく調べる。
 
歯周病と関連があるとされる病気はほかにもある。
よく知られているのが糖尿病だ。
この病気は血糖を下げるホルモンのインスリンがうまく働かなくなったり足りなくなったりする。
糖尿病の人は歯周病にかかりやすく、歯周病の人は糖尿病が重症化しやすい。相互に関係している。
 
米国の研究によると、生活習慣などから発症する2型糖尿病の患者は糖尿病ではない人に比べ、歯周病が重症化するリスクが1.5~3倍程度高かった。
糖尿病患者は病原体などから身を守る免疫の働きが低下しており、炎症による組織の破壊が進みやすいことなどがその理由とされている。
 
また、歯周病菌から出される毒素が血管内に入ると、炎症性物質がつくられ、インスリンができにくくなり、血糖値が上がることも分かっているという。
薬や食事のコントロールをしても血糖値が下がらない患者が、歯医者に行くと症状が改善することもある。
歯周病の治療によって、インスリンの作用を阻害する炎症性物質の血中濃度が減少するためだと考えられている。

   □   □

歯周病は中年以降に多い病気だと思われがちだが、若い世代でも発症するタイプもある。
「侵襲性歯周炎」と呼ばれている。
細菌感染で起こるのは通常と変わらないが、家族内で発症するなどの特徴から遺伝が関係している。
 
侵襲性歯周炎の人は20~30代で歯を支える骨の状態が通常の人より大きく悪化しており、歯が抜けやすくなっている。
妊娠・出産をする女性が歯周病だと早産や低体重児出産のリスクが高まる。
妊娠前に歯科医院を訪れて口の中をチェックすることが大切だ。
 
明確な関係性の解明はこれからだが、高齢女性に多い骨粗しょう症患者も歯周病に気をつけた方がよさそうだ。
骨粗しょう症では破骨細胞による骨の破壊が骨の再生能力を上回ることで、骨がもろくなってしまう。
歯周病患者は歯周病菌の影響で骨を支える部分の破骨細胞が活発になっている。
歯周病にも気をつけることが、骨折などを防ぐのに役立ちそうだ。
 
歯周病は、心筋梗塞などにつながる動脈硬化、慢性腎臓病、誤嚥性肺炎などとの関連も指摘されている。
口の病気だと甘く見ずに、しっかり治療することが他の病気を防ぐことにつながる。

イメージ 2


出典
日経新聞・朝刊 2015.11.15




イメージ 1

              京都・下鴨神社 境内 2015.11.15 撮影