予防が大切、インプラント周囲炎 自覚症状なく骨溶ける、抜本治療なし
抜けた歯の代わりに、人工の歯の根元部分を埋め込む「インプラント」治療。
天然の歯の歯周病と同じく、あごの骨が溶けるなどの症状が出る「インプラント周囲炎」が問題になっている。
症状が進むと抜本的な治療法がなく、インプラントを抜くしかない。
日頃の予防が第一という。
インプラント治療が国内で盛んになって30年ほどがたった。
海外では半世紀の歴史があるという。
はじめはインプラントは1回入れてしまえば、永久的にもつ夢の治療と考えられていた。
だが、天然の歯の歯周病と同じように歯茎のはれや、うみが出る症状がみられるようになった。
インプラントと歯茎の間に「ポケット」と呼ばれる隙間ができ、その中で歯周病菌が増える。
歯茎に炎症が起き、ポケットは深くなっていき、あごの骨が溶けてしまう。
これがインプラント周囲炎だ。
日本歯周病学会の調べでは、インプラント治療から3年以上たった患者267人の約1割がインプラント周囲炎、約3分の1がその前段階のインプラント周囲粘膜炎になっていた。
歯周病専門医が診ていて、よいケアを受けている患者の調査なので、実際はもっと多いと考えられる。
天然の歯の周りでは炎症を抑える物質が出たり、歯にかかった力が骨に伝わるのを和らげる部分があったりして、歯周病から守られている。
このような仕組みが働かないインプラントは、症状が悪くなるのが早いという。
周囲炎が増えたのは治療の基本が守られていないのが大きな原因だ。
加えて、機能回復だけでなく見栄えをよくするため、最初のころは歯茎の上に出ていたインプラント上部を見えなくしたのも一因だ。
審美性の追求は自然な流れで悪いことではないが、それが過ぎると、インプラントを深く埋め込む傾向が強くなり、ポケットが深くなったり、患者さんが自分で清掃できないかぶせ物が装着されたりして、周囲炎が起こりやすくなる。
歯周病もインプラント周囲炎もよほど悪くならない限り、痛みなどの自覚症状があまりないのが特徴だ。
歯周病だと歯がぐらぐらゆれるので分かることもあるが、インプラント周囲炎はよほど悪くならないとゆれず、なおさらわかりにくい。
気づかずに症状が進んで、インプラントが抜け落ちたり、X線写真を撮ったら骨が大きく溶けていたりすることがあるという。
炎症ではれている初期であれば、インプラントの周りを徹底的にきれいにし、菌を取り除くことで回復が期待できる。
超音波やレーザーなどを使う治療法が研究されているが、骨が溶ける症状が進んでしまうと抜本的な治療法は今のところない。
インプラントを抜くしかなく、骨に大きな負担がかかる。
■ 残る歯、事前に治療を
周囲炎を防ぐには、どうすればいいのか。
予防が重要で、三つのポイントがある。
(1)インプラントを入れる前に、残った歯の虫歯や歯周病を完全に治す。
(2)入れる際、骨の再生を促す治療で周りの骨を増やすなどし、長持ちする環境を整える。
(3)治療後は天然の歯と同じようにきれいに保ち、2、3カ月に1回、歯科医で専門的なメンテナンスを受ける。
ケアをしっかりできない人はインプラント治療を選択するべきでない。
Yさん(71)は十数年前、インプラントを受けた。
インプラントを入れる前に、歯が抜ける原因になった歯周病の治療を徹底的に受けたという。
以前は歯の手入れはおざなりだったが、主治医の指導もあり、いまは歯間ブラシなど複数の器具を使って徹底的にきれいにしている。
2カ月に1回ほど歯科医院に通い、自分では完全に落とせないポケットの汚れなどを取り除く。
いまのところ、本物の歯のように使いやすいという。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.3.27
ニュージーランドにて 2019.5