1~2年ごとに定期検診を
細胞の増殖に関係する遺伝子に突然変異が積み重なって、不死化したものが、がん細胞だ。私たちの体の中では、毎日多数のがん細胞が発生しているが、免疫細胞が水際で退治してくれている。
しかし、この「免疫監視機構」も万能とはいえない。
私も早期のぼうこうがんを自身で発見したが、私のぼうこうがん細胞はもともと私の正常なぼうこうの細胞だから、私の免疫細胞にとっては異物に見えにくいのだ。
免疫細胞の攻撃をかわし、ある日生まれたたった一つの細胞からがんの長い物語は始まる。
細胞分裂によって1個が2個、2個が4個と、倍々で増えていく。
がん細胞の大きさは10マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルぐらいだが、細胞分裂を繰り返して1立方センチになるためには、2の30乗個、約10億個のがん細胞が必要だ。
たった一つのがん細胞が約30回の分裂によって1センチメートル大になるわけだが、これに要する時間は10から30年程度といわれる。
私のようながんの専門医でも、5ミリのがんを見つけるのは至難の業で、簡単にいえば、1センチ程度にならないとがんと診断することはできない。
つまり、多くのがんは20年といった長い年月をかけてようやく発見できる大きさになるわけだ。
しかし、1センチになったがんの病巣は2年たらずで2センチの大きさになる。
体積で8倍(2の3乗)ですから、3回の分裂ですむことになる。
30回の分裂に20年かかるとすると、3回では2年という計算だ。
もっと進行が速いタイプのがんは約1年で2センチになる。
私の場合、14ミリのぼうこうがんを自分で行った超音波検査で発見したが、2センチ以下であれば、どの臓器のがんでも、ほとんど完治させることが可能だ。
1センチから2センチのがんが症状を出すことはまずないから、がんの種類に応じて、1年あるいは2年ごとに検査を受ける必要がある。
肺がんは毎年、乳がんは2年ごとに検診を受ける必要があるのだ。
今回の計算はかなり単純化したものだが、定期的ながん検診の重要性が理解していただけると思う。
執筆 東京大学病院・ 中川恵一 准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.9.18
シンガポール 2019.5
マリーナベイ・サンズ