がん免疫薬の効果増幅

がん免疫薬の効果増幅 効かない患者に光 併用物質で邪魔されず届く 北大など開発

オプジーボ」などのがん免疫薬でも効果がないがん患者に使える治療法の研究が進んでいる。
がん免疫薬は治療が難しかったがんに劇的に効く半面、投与した患者の2~3割にしか効かない。
北海道大学など3つのチームはがん細胞が免疫から逃れられないようにして、治療効果を高める技術を開発した。
マウスの実験ではがんが小さくなった。
製薬会社などと組んで臨床応用を進める。

効かない患者に光
がん細胞は健康な人でも1日数千個生まれる。がんを発症しないのは、病原体を取り除く免疫ががん細胞を排除するからだ。
しかし、がん細胞は目印を隠して免疫細胞をかく乱したり、攻撃モードに入らないようにしたりする。
様々な方法で免疫の監視や攻撃をすり抜けて増殖する。

京都大学本庶佑特別教授らは、がん細胞が免疫の攻撃を逃れるカギとなるたんぱく質を見つけた。
その働きを抑えることで、がん細胞への攻撃モードをオンにするのがオプジーボだ。
この成果で、本庶氏は2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。

がん免疫薬は新薬が登場したが、いずれも効く患者の数は限られる。がん細胞を見つけて攻撃命令を出す「ヘルパーT細胞」や命令を受けて出動する「キラーT細胞」などの機能に個人差があるからだ。
こうした免疫細胞の能力を高めたり、働きを邪魔する物質を取り除いたりすれば、多くのがん患者で高い治療効果を期待できる。
がん免疫薬と組み合わると、相乗効果で効き目が強まる。

北海道大学の瀬谷司客員教授と松本美佐子客員教授は、ヘルパーT細胞に働きかけて、がんへの攻撃力を高める物質を合成した。
ヘルパーT細胞がキラーT細胞に命令を盛んに送り、がん細胞めがけて集中攻撃する。
がん免疫薬を組み合わせ、人のがんを移植したマウスに投与した。
皮膚がんや白血病悪性リンパ腫で試すと、15日たったときのがんの大きさは、がん免疫薬だけ使った場合の半分になった。
製薬企業に協力を打診しており、数年後の臨床試験(治験)を目指す。

熊本大学の押海裕之教授と塚本博丈講師らの技術は、がん細胞への攻撃を邪魔する「インターロイキン6」を消す。
この物質はヘルパーT細胞に標的をウイルスなど他の病原体に仕向けさせる。
その働きをつぶしてがんに攻撃を集める。
がん免疫薬と併用するとマウスの皮膚がんは26日後に半分に縮小した。
数年後の治験を目指す。

熊大の諸石寿朗准教授らは、がん細胞が免疫の監視を逃れるのを防ぐ技術を開発した。
攻撃の目印を隠す働きをする「LATS1」と「LATS2」の2つの遺伝子を見つけた。
これらを働かないようにしたがんをマウスに移植したところ、2カ月後も生き残った。

従来のがんの治療は手術、抗がん剤放射線だった。
手術では見えない病巣は除ききれず、がんと戦うリンパ節まで取るため免疫力が落ちる。抗がん剤放射線でもがん細胞をすべて殺すことは難しかった。
がん免疫薬なら効く患者ではがん細胞をすべて取り除くことができる可能性がある。

がん免疫薬は「第4の治療法」と呼ばれるまでになったが、がん治療に使えそうな未知の免疫の働きはまだ残っている。
こうした働きを突き止めて制御できるようになれば、がん治療を変える潜在力を秘める。

がんの免疫療法 
人間がもともと持っている免疫を利用してがん細胞を殺す治療法。
病気にかかったと勘違いさせて免疫の働きを促す発想は古く、19世紀末に米国で伝染病菌を殺したうえで注射する治療が試みられた。
その後も様々な研究が出たが、科学的な効果は確認できていない。
 
従来は免陳の攻撃力を高めることを目指した。
これに対し、オプジーボなどのがん免疫薬はがんが免疫の攻撃を逃れる仕
組みを外すという逆の発想で開発された。
このほか、患者から取り出した免疫細胞にがんを発見するレーダーとなる遺伝子
を組み込んで体内に戻す「CART-T(カーティー)細胞」療法も注目されている。

日本経済新聞・朝刊 2019.2.11