運動はがんの進行を抑える?

「運動はがんの進行を抑える」 ウソ・ホント?

がんは長年、日本人の死因第1位の座を独占し続けている。
多くの人にとって最も怖い病気だ。
では、がんだと宣告されたら、私たちはどうしたらいいのだろうか。
もちろん、医師と相談しながら、積極的に治療に取り組むことになるが、自分でできることもある。
そのひとつが「運動」だ。

がんといえば重病だ。
運動なんかしていいの? と思われるかも知れない。
確かに症状や進行度にもよるが、「運動できる人はしたほうがいい」というのが最近の定説になっている。
報告されているエビデンス(科学的根拠)もいくつかある。

1つは、大腸がんと診断され、転移のない男性668人を20年間観察した研究だ。
20年間で258人が死亡し、うち88人は大腸がんが原因だった。
「1週間の運動量」を見ると、運動量が多いほど死亡率が低く、最も運動量が多かったグループは、まったく運動しなかった人たちに比べて大腸がんによる死亡リスクが47%も下がっていた。

前立腺がん患者を追跡調査した米国ハーバード大学の研究でも、「週3時間以上のウオーキング」をしている人たちのがん再発・転移、死亡のリスクは57%下がっていた。

ドクターランナー(事故に備えて選手と一緒に走る医師)として多くの市民マラソン大会やトライアスロン大会に出場しているある医師は、「運動によって大腸がんや前立腺がんの進行は抑えられます。実際、米国にはランニングやウオーキングでがんを抑えようという患者のサークルがいくつもあります」と話す。

この医師自身も、長いこと前立腺がんと運動の研究を続けている。
前立腺がんと診断された患者102人(平均74.8歳)に、ホルモン治療と併行してウオーキングを指導した。
8年間で48人が死亡、うち20人(41.7%)は前立腺がんが原因だったが、「1カ月に120km以上のウオーキング」をしている人たちは、死亡率が半分に抑えられた。
「雨の日も風の日もやる必要はありません。1日6km、月20日を目安に指導しています」とこの医師は言う。

筋肉の成長に男性ホルモンが使われる?
では、なぜ運動によって前立腺がんの進行が抑えられるのだろうか?
これはテストステロン(主要な男性ホルモン)が筋肉で消費されるからではないか、と考えられる。
前立腺がんはテストステロンをエサにして増殖する性質を持つ。
そのため、治療はテストステロンの分泌を抑えることが基本になる。
運動によってテストステロンが筋肉で使われると、前立腺がんのエサになる量が減るのではないか、というのこの仮説だ。

大腸がんの場合も同じく、運動でIGFインスリン様成長因子)が筋肉で使われることが、がんの進行を抑える大きな要因になっている可能性がある。

これらはまだ解決しないといけない問題が多くある。
運動とがん抑制の関係については、いまだにメカニズムがほとんど分かっていないためだ。

もっと多くのサンプルを集めて、日本全体で考えていくべきテーマだと思われる。
米国のように、がん生存者が積極的に治療データを後世の研究のために残して、日本のがん治療に役立てるシステムが必要だ。

参考・引用一部改変
日経Gooday 2017.11.27