iPS細胞の利用が活発化

再生医療 iPS細胞の利用が活発化

ヒトの臓器や組織を再生し、失われた機能を取り戻そうとする「再生医療」。
代表的なのは様々な細胞になれるiPS細胞だ。
2012年に京都大の山中伸弥教授にノーベル医学生理学賞が贈られてから6年余り。
iPS細胞をはじめ、再生医療の実用化に向けた動きは今、どこまで進んでいるのだろうか。
 
iPS細胞は血液や皮膚などの細胞に、特定の四つの遺伝子を加えて作る。
さらに、一定の条件で培養することで、神経や心臓といった様々な細胞や組織にすることができる。
こうして変化させた細胞を患者に移植し、病気やけがなどで失われた機能を回復させようと、07年に山中教授がヒトiPS細胞を発表して以来、国内外で研究が進められてきた。
 
ヒトに初めて移植されたのは14年。
理化学研究所などが、目の難病「加齢黄斑変性」の患者で臨床研究をした。
この病気は網膜の組織が傷むことで、視野の一部が欠けたりゆがんで見えたりする。
そこで、患者自身の皮膚から作ったiPS細胞を網膜の組織にして、目に移植した。

このようなiPS細胞を使った臨床研究には期待が大きい一方、まだ新しい試みなので体への影響などで未知の部分もある。
そのため、臨床研究を始めるに当たっては、厚生労働省に認められる必要がある。
 
そんな中、昨年は実用化に向けた動きがいくつかあった。
これまでは加齢黄斑変性だけだったのが、昨年10月、京都大がパーキンソン病患者にiPS細胞からつくった神経細胞を移植する治験を行った。
 
また、iPS細胞を心臓の筋肉の細胞にして重い心不全の患者に移植する大阪大チームと、血を止める働きをする血小板をiPS細胞から作って血液の難病「再生不良性貧血」の患者に輸血で移植する京都大チームの臨床研究計画が、国に認められた。
慶応大チームは、脊髄損傷の患者に神経のもとになる細胞を移植して、運動や感覚の機能を取り戻そうとする計画を昨年末に提出した。
順調に行けば、この3例は今年中に実施されるとみられる。
 
他にも、理研のチームが、NKT細胞というがんを攻撃する細胞をiPS細胞から作り、頭頸部がんを治療しようとする治験を年内にすることを目指している。
 
実用化に向けてはコストダウンも必要だ。
そのため、他人の細胞から作った複数のタイプのiPS細胞をストックしておく事業もある。
また、腫瘍化のおそれが指摘されるiPS細胞だが、慶応大のチームはあらかじめ特殊な化合物を加えることでリスクを抑える工夫をしている。

大学などの研究機関だけでなく、企業でも再生医療をめぐる動きが活発になっている。
目をひくのは、国から承認を受けた再生医療製品の製造販売だ。
 
ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社の「ジェイス」は皮膚の再生を目指した製品だ。
重い熱傷などの患者自身の細胞を採取して培養し、シート状にして移植する。
他に、ひざの軟骨を再生させる製品や、足の筋肉由来の細胞をシート状にして心不全の患者に移植する製品などもある。
昨年末には、脊髄損傷を対象とした細胞製剤が加わった。
 
関係企業でつくる団体、再生医療イノベーションフォーラムの運営委員長は「承認を待っている製品も複数ある」とし、再生医療の現状を「夜明けから日が昇っている状況に変化している。これからどんどん明るくなるだろう」と表現する。

一方で再生医療とうたいつつ、有効性がわかりづらいものもある。
高額な治療費を請求される場合もあるので、注意が必要だ。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 29019.2.9