「がん」 欧米化、 急速に進行
厚生労働省などの統計によると、日本で2010年に新たにがんにかかった人は男性が46万8048人、女性が33万7188人の計80万5236人と推定された。
これは1975年の計20万6702人の約4倍になる。
がん増加の理由は急速に進む高齢化だ。
生涯にがんにかかる確率は男性60%、女性45%と試算されている。
どの臓器に多いのかをみると、男性では胃、肺、大腸の順だった。
一方、女性は乳、大腸、胃となっている。
死亡数が多い順に並べると、男性が肺、胃、大腸で、女性は大腸、肺、胃だった。
がんによる死者は2012年の統計によると、男性21万5110人、女性14万5853人の計36万963人。
がんで死亡する確率は男性26%、女性16%だ。
欧米ではがんによる死亡数がすでに減少に転じているが、日本では増え続けている。
<コメント>
この理由はどのようなものでしょうか。
ただ、例外的に死亡数が減っているものもある。
胃、肝臓、子宮頸部のがんだ。
この3つに共通するのは、感染によって引き起こされるということだ。
胃がんではピロリ菌が、子宮頸がんでは性交渉で感染するヒトパピローマウイルスがいなければ、発症することはまずない。
肝臓がんの原因の8割程度は、B型とC型の肝炎ウイルスだ。
胃がんが減ったのは、冷蔵庫などの普及で衛生状態がよくなり、ピロリ菌の感染が減ったからだといわれている。
子宮頸がんもコンドームやシャワーを使うなど清潔を心がければ予防できる。
また、輸血用の血液を調べることでウイルス性肝炎が減った結果、肝臓がんによる死亡も
減少した。
現在、日本で発症が増えているのが、男性の前立腺がんと女性の乳がんだ。
欧米では男女それぞれで1位となっている。
背景にあるのが「食の欧米化」だ。
前立腺がんは男性ホルモン、乳がんは女性ホルモンの刺激で増える。
性ホルモンはコレステロールを原材料として精巣、卵巣で合成する。
日本人の肉の摂取量はこの半世紀で10倍近くに増えた。
それに伴って、欧米型のがんが増えたのだといえる。
「がんの欧米化」が急速に進行しているのだ。
執筆
東京大学病院・中川 恵一 准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2014.6.29