子宮頸がんワクチンの効果
子宮頸がんは胃がんや肝臓がんと並ぶ「感染型のがん」の代表で、発症原因のほぼ100%が性交渉に伴うヒトパピローマウイルス(HPV)だ。
冷蔵庫の普及や上水道の整備などによって、ピロリ菌の感染が減り、胃がんの死亡率は10年で約3分の2となっている。
さらに減っているのが肝臓がんで、輸血の血液から肝炎ウイルスを除去することなどで、死亡率は10年で半減している。
一方、一時減少していた子宮頸がんは2000年ごろから再び増加に転じている。
本来減っていくはずの感染型のがんが増えているのは、先進国のなかでは異例の事態だ。
このがんの発症のピークは30代だから、菅内閣が取り組む少子化対策としても重要だ。
すでに少し前からHPVを予防するワクチンが開発されており、わが国でも、13年から、小学校6年~高校1年の女子を対象に定期接種が始まっている。
しかし、「副反応」の映像をめぐって大騒動となり、一時は8割近くあった接種率は現在、ほぼゼロとなっている。
こうしたなか、厚労省は、10月9日、HPVワクチンに関するリーフレットを改訂したと発表した。
「小学校6年~高校1年相当女の子と保護者の方へ大切なお知らせ」だ。
HPVワクチンの効果についても触れており、概要版には「前がん病変が実際に減ることが分かっていて、がんそのものを予防する効果を実証する研究も進められています」という記述がある。
たしかに、ワクチンが子宮頸がんを減らすかどうかはこれまで確認されておらず、[ワクチン不要論」の論拠のIつとなってきた。
しかし、10月1日、世界トップクラスの米医学雑誌に、HPV予防ワクチンが実際に子宮頸がんを予防するという研究結果が掲載された。
スウェーデンの研究グループが、同国内の女性167万人について調査した結果だ。
17歳未満(日本の定期接種の対象年齢に相当)で接種した場合は子宮頚がんのリスクが88%低下。
17~30歳の接種の場合は53%低下していた。
ワクチンによる子宮頚がんの予防効果が実証された意義はとても大きい。
執筆
東京大学病院・中川恵一准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2020.11.4