アルツハイマー病進行に新説

アルツハイマー病進行に新説  異常の「タネ」正常型を変換?

脳で広がるしくみ 報告次々

脳で異常なたんぱく質の蓄積がみられるアルツハイマー病。

これまで神経細胞ごとに異常なたんぱく質ができるプロセスがあると考えられていた。

ところが、少数の細胞でできた異常なたんぱく質が、ほかの多くの細胞の正常なたんぱく質を次々と異常型に変えることで病変が拡大する、という考え方が登場した。

 

2015年10月9日、名古屋市の国際シンポジウムで英 MRC分子生物学研究所のミシェル・ゴデートさんが、病変部が脳内で広がるしくみを「プリオンコンセプト」という新しい考え方で探る研究を紹介した。

 

アルツハイマー病の脳では、分解されにくい異常なたんぱく質がたまって細胞を傷つける。

これまでの研究では、異常が個々の細胞でそれぞれ独立に起きると考えられていた。

だが最近、ある細胞でできた異常型が「タネ」となって他の細胞へ広がり、正常なたんぱく質を異常型に変換させるという説に沿った研究成果が出てきた。

 

この考え方は、たんぱく質プリオン」の正常型が異常型に変わって増えていくクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の研究から出てきたので、プリオンコンセプトと呼ばれる。

 

ゴデートさんらは、アルツハイマー病の脳でたまる「タウたんぱく質」の異常型をタネとしてマウスの脳に入れると、異常型が増えるのを確認した。

 

東京都医学総合研究所認知症・高次脳機能研究分野長の長谷川成人さんは「レビー小体型認知症」の脳でたまるたんぱく質「αシヌクレイン」が凝集した異常型をマウスの脳に注射すると、正常なたんぱく質が異常型になって蓄積し、広がることを見つけた。

 

こうした報告が相次ぎ、アルツハイマー病のほか、異常なたんぱく質がたまるパーキンソン病など多くの脳の病気を統一的に説明できる可能性が出てきた。

分解しにくいたんぱく質ができる過程や、それが伝わるしくみを新たな視点で調べる研究が進む。

  

たんぱく質の種類による違いや、複数のしくみが関与して単純ではないだろうが、新たな診断法や治療法開発の標的が見つかる可能性がある。

 

拡散抑える研究も

脳の中で異常を監視するしくみと、病変が広がる関係に注目する研究も進む。

 

米ボストン大のチームは、病変拡大に「ミクログリア」と呼ばれる免疫細胞が重要な役割を果たすことをマウス実験で見つけた。

ミクログリアは、異常なタウたんぱく質やそれがたまった細胞を食べて除く監視役。

ただ処理し切れないと、異常なタウを小さい膜に包んで細胞外へ出してしまう。

それを別の神経細胞が取り込むことで、病変が広がっていく。

 

アルツハイマー病の脳でタウがたまる領域は、嗅内皮質から海馬へと拡大していく。

そこで、マウスの嗅内皮質にタウがたまった段階でミクログリアの働きを薬で止めると、海馬でタウがたまるのを抑えられた。

 

チームの池津庸哉教授は「脳内のタウたんぱく質の拡散を防ぐことは、病気の進行を抑えるのに有効だろう。この薬がそのまま使えるかはわからないが、今後の治療法開発につながる可能性があるという。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2015.10.22