認知症薬 新発想で開発停滞打破へ グリア細胞、老廃物を除去

認知症薬「脳を掃除」に注目 新発想で開発停滞打破へ

患者数の多さと治療の難しさから、アルツハイマー病は現代医学で最も厄介な病といえる。
世界の大手製薬会社が次々と新薬開発の臨床試験(治験)でつまずき、長年、脳にたまる老廃物が原因とみてきた「アミロイド仮説」が揺らぐ。
こんな中、脳を守る「グリア細胞」を攻略する新たな発想が注目されている。
治療の突破口になるのか期待がかかる。

脳は神経細胞ニューロン)とグリア細胞、そして血管からできている。
1000億個以上ある神経細胞は巨大な情報処理ネットワークを作り、電気信号によって記憶や思考を担う。
神経細胞がうまく働くよう脳内環境を整えているのがグリア細胞だ。

富士フイルムグリア細胞の中で「ゴミ掃除」を担当する免疫系細胞、ミクログリアに狙いを定めたアルツハイマー病薬の治験(第二相)を今夏にも欧州で始める。
もの忘れが目立つといった前段階の症状が表れアルツハイマー病へと進行するリスクの高い患者に新薬候補化合物「T-817MA」を経口投与し、効果を確認する。
ミクログリアに作用して脳の免疫バランスを保ち、神経細胞の死滅を免れるというシナリオだ。

アルツハイマー病の治療研究は脳の神経細胞に注目しがちだが、脳にあるもう一つのグリア細胞に目を向けた。
マウスやiPS細胞を使った実験で、老廃物となるたんぱく質のアミロイドベータの除去につながることが分かった。
この3月、アルツハイマー病に関する国際学会で発表した。
低分子化合物でできており、最近のバイオ医薬品とは違って製造コストもかさまない。
うまくいったとしても実用化には5~10年かかるが、血圧やコレステロールの値を薬でコントロールして脳梗塞や心臓病の発症を抑えるように、予防的にアルツハイマー病リスクを下げることができるかもしれない。

東京大学の富田泰輔教授らは、もう一つのグリア細胞であるアストロサイトがアミロイドベータを分解する酵素を分泌していることを突き止めた。
「アミロイドベータがたまっていくことよりも、分解できなくなっていくことに問題があるのではないか」という着眼点で研究を進めてきた成果だ。
この酵素が出やすくなる低分子化合物を探索中という。
1906年アルツハイマー病は精神科医アルツハイマー博士が学会で初めて症例を報告した。
時間をかけてゆっくりと進行し、生活機能が失われ、寝たきりになる。
日本ではまだ死に至る病という認識が浅いが、高齢者だと診断がついてから5~10年で死亡するケースが多い。

脳の海馬から始まる「神経細胞の死」が直接の原因だが、なぜ徐々に死滅していくかは1世紀たった今もよくわかっていない。
アルツハイマー病に代表される認知症研究は、ここ20年、脳にたまっていくアミロイドベータが神経細胞を損なう、というアミロイド仮説に基づき進んできた。
しかし数年前に大手製薬会社による治験の失敗が続いた。
最終段階で断念すると、基礎研究から含めて約3000億円の開発費が無駄になったこともあるといわれる。

ファイザーのように巨額投資に見合わないと創薬をあきらめるケースも出てきた。
今年3月には「最後の望み」とみられてきた米バイオジェンの治験も頓挫した。

脳の中にたまるもう一つのたんぱく質、タウに焦点を絞った治験もいくつか進行している。
ただ、脳の中にはアミロイドベータやタウ以外の「老廃物」もたくさんあり、複雑に絡み合って発症するという見方が出てきた。
治療薬ができたとしても複数を使う併用療法になるかもしれない。

脳は1年間で自身の重さの2倍近い量のたんぱく質を入れ替えている。
ロチェスター大学のチームは脳にも新陳代謝を担う「グリンパティック(グリア細胞リンパ系の造語)システム」が存在するとし、認知症研究に取り組む。
今年2月、深い睡眠が老廃物の除去には欠かせないと研究報告し、話題になった。
人間がなぜ眠り、人生の3分の1を無意識な状態で過ごさなければならないかの説明もつく気がする。

認知症をはじめとする脳研究はこれまで神経細胞に偏重してきた。
アルツハイマー病の新薬開発が袋小路に入る中、これまで黒子と見られてきたグリア細胞の研究が新たな糸口になるかもしれない。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.7.1

関連サイト
認知症薬 脳を守る機能に注目
https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/467