肺がん 治療法多様に

肺がん 治療法多様に 新薬と抗がん剤、手術の併用も

肺がんは日本人のがんの死者数で最も多い。
日本経済新聞の実力病院調査で症例数が多かった病院では、切除だけでなく、体に備わる免疫の仕組みを生かす「免疫チェックポイント阻害剤」と抗がん剤の併用や、抗がん剤による全身治療後の外科手術など、複数の手法を組み合わせる治療法に力を入れている。
次々と新たな治療法が生まれており、生存率の改善に期待が高まっている。

2017年の肺がんによる死者数は男女合わせて約7万4千人。
たばこを吸わない人も発症しており、過去10年間で13%増加し、がん全体の2割を占める。
肺がんの8割を占めるのが「非小細胞がん」というタイプで、早期の場合、手術で切除するのが標準的な治療法だ。進行して切除できない場合、抗がん剤放射線治療で対応する。
全体の2割程度を占める「小細胞がん」は手術が可能な早期に発見されることは少なく、抗がん剤治療が中心となり、放射線治療を併用することもある。

肺がんの化学療法では、がんの増殖に関わる分子に狙いを定めて増殖を阻害する分子標的薬のほか、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」や「キイトルーダ」などが開発され、効果を上げている。

今回の調査で17年度の「手術なし」が1742例と全国2位の札幌南三条病院(札幌市)は全国でも珍しく肺がんに特化している。
この病院では、死者数の多い肺がんは毎年のように新たな治療法が生まれて試行されている。
同病院が取り組んでいる試みの一つがキイトルーダと抗がん剤の併用療法だ。

厚生労働省は昨年12月、進行した非小細胞がんの最初の治療法として、キイトルーダと2種類の抗がん剤の併用療法を承認。
臨床試験では、肺がんで最も多い「腺がん」と、増殖が速い「大細胞がん」で通常の抗がん剤治療より死亡リスクが51%低減した。
喫煙との関連が大きいとされる「扁平上皮がん」のリスクも36%低くする効果があった。
キイトルーダは外来で投与するのが一般的だが、同病院では抗がん剤の副作用に対応するため患者は入院して治療を受ける。
点滴を3週間ごとに4回実施。その後は抗がん剤の種類を2種類から1種類に減らし、外来治療に移る。

対象は最も進行した4期の患者が中心で、放射線治療ができない3期の患者を対象にすることもある。
副作用を警戒し、全身状態の悪い患者などは対象としていないという。
現在までに併用による新たな副作用はなく、これまでの化学療法で見たことがないような劇的な効果が出ている。
同病院では、化学療法を受ける新規患者の2割程度が対象となっているが、病院では「徐々に対象を拡大すれば、5割程度が治療対象になるかもしれない」と期待する。

がんが進行して切除できない患者も切除する研究が進んでいる。
今回の調査で「手術あり」が528例で全国2位の国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で取り組んでいるのが「サルベージ手術」だ。

この病院の呼吸器外科長は「進行がんの患者では目に見える腫瘍だけ切除しても早期に再発するだけと考えられていた。
化学療法が進歩した現在では、薬の効果があるときに手術することで、生存期間がより延びる可能性がある」という。

現在は標準治療ではないため、同病院は臨床研究の準備を進めている。
米国で進行中の研究で同種の治療法により約4割のがん患者に再発リスクを減らす効果があったという。

同病院で対象としているのは、腫瘍が手術だけで取りきれない3期の患者と、転移が3カ所以内の4期の患者。3~4週間に1回の抗がん剤治療を4~6回繰り返した後に手術をする。
抗がん剤だけでなく免疫チェックポイント阻害剤を使ったり、外科手術の代わりに放射線治療をしたりするケースもある。

肺周囲の器官にがんが広がっている場合、同病院では他院と連携した複合的な手術にも取り組んでいる。
昨年1月には、肺上部から背骨の円柱部分(椎体)にがんが広がった患者の手術を実施し、人工の椎体に置き換える全置換手術は国際医療福祉大三田病院(東京・港)の整形外科が担当した。
心臓などの太い血管に浸潤した場合は近隣の新東京病院(千葉県松戸市)などと連携している。

国立がん研究センター東病院では「その道のトップクラスの医師を集めて最大限の治療をする。がんセンターは地域のがん治療の最後のとりで。リスクがある手術でも、患者に十分に説明した上で取り組んでいく」としている。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.7.29