膀胱がんの温存療法

膀胱がんの実力病院 進行性でも温存療法

膀胱がんは60歳以上の男性に多い。
大部分は早期の段階で見つかるが、進行すると膀胱の摘出などが必要になる。
進行がんでも放射線抗がん剤を併用して膀胱を温存したり、精度向上のため支援ロボットを活用したりと先進的な取り組みがされるようになって来た。
生活の質を高めようと術後ケアに積極的な病院もある。
国立がん研究センターによると、2015年に新たに膀胱がんと診断されたのは推定2万1300人。
男女比は3対1で、60代以上が多い。
罹患者は大腸がんや肺がん、胃がんの6分の1程度だが、高齢化で増加傾向という。

喫煙が最大の原因
最大の原因は喫煙とされる。
膀胱は内側から粘膜、筋肉層、しょう膜(他の臓器との隔壁)の3層構造。
尿中の発がん性物質が常に粘膜と接触することでがんができる。
初期症状としては血尿が多い。
 
粘膜にできたものは表在がんといい、膀胱がんの8~9割を占める。
尿道から内視鏡を入れ、粘膜表面のがんを切除するのが一般的だ。
ただ再発を繰り返すケースが多く、抗がん剤の投与などで再発を予防する。
 
さらに筋肉層にまで入り込むと浸潤がんになる。
血管やリンパ管によって転移しやすくなるため、より注意が必要だ。
浸潤がんは膀胱を全部取らないと転移して致命的になる。

浸潤がんでは、あらかじめ2種類の抗がん剤を投与し、開腹手術によって骨盤内のリンパ節なども含めて摘出する方法をとる。
小さながんをたたいておき、手術での患者への負担や再発を減らす狙いだ。

腹腔鏡手術も普及しつつある。
先端にカメラがついた腹腔鏡と、メスなどがついた器具を腹に開けた穴から入れてがんを切除する。
出血が少なく、手術時間も短い。
合併症のため出血を減らしたい患者や高齢者に実施することが多い。

最新の手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使う病院もある。
へそ付近を5センチほど切り、おなかの両側には1センチの穴を6カ所開け、操縦席で3次元モニターに映った患部を見ながら、挿入した腹腔鏡を遠隔操作してがんを取り除く。
 
この方法では細かな操作がしやすいのでがんをきれいに切除できる。
ただ膀胱がんでは保険が適用されておらず、入院などを含めた治療費は200万円になる。

術後患者交流の場
膀胱を取ると尿をため、出すことができなくなり、尿の通り道を変えるか、新しく作り直す必要がある。
切り取った腸で通り道を作って脇腹に採尿バッグを取り付ける方法や、小腸の一部を袋状に縫って代用膀胱とする手段がある。
 
採尿バッグは見た目が気になり、一時的に落ち込む人もいる。
代用膀胱は尿がたまった感覚がわからず、失禁する場合もある。

薬剤・放射線併用で好成績
放射線と化学療法を併用する膀胱温存療法を実施して、手術をしない治療にも力を入れる病院もある。

この方法は風船付きの管を動脈に入れ、膀胱への血流を風船でいったん止める。
膀胱内には管から高濃度の抗がん剤を注入、筋肉層や周辺組織に行き渡らせる。
膀胱から心臓に至る血液はカテーテルを通じ、体外で透析して抗がん剤を取り除いた上で体内に戻す。

通常の点滴などと違って全身に抗がん剤がまわらず、膀胱内だけに投与できる。
高齢者や腎臓が悪い人でも治療できるという。
 
投与後には放射線を1日1回、6週間で計30回照射する。
自由診療で入院も含めた治療費は約90万円かかるが、膀胱摘出を望まない人が適応となる。
 
「膀胱を残すためというより、全摘より生存率が高い」と、ある実施病院の医師はいう。
がんが膀胱の筋肉層に入ったばかりの段階なら5年生存率は約92%で、筋肉層に深く入って転移が見られる段階でも約75%という。

出典
日経新聞・朝刊 2016.2.28(一部改変)