負担の少ない胃がん手術

胃がん手術、負担少なく 小さな傷で短時間、ロボも活用

年間約13万人が発症する胃がんは、大腸がんに次いで患者数が多い。
早期であれば内視鏡で治療でき、5年生存率は100%に近い水準にある。
傷口が小さく回復も早い腹腔鏡手術とともに、2018年に保険適用された手術支援ロボットを積極的に活用するなど治療の選択肢が広がっている。

胃がんは胃壁の内側にある粘膜の細胞ががん細胞となり、徐々に壁の外側へと進行する。
早期がんの治療は内祝鏡で患部の粘膜を切り取る方法が普及。
粘膜層にがん細胞がとどまり、リンパ節転移する可能性が極めて低い患者が対象で、開腹せずに胃を残せるため、体への負担が少ない。
 
手法は現在主流となっている電気メスで粘膜下層から腫瘍を剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)のほか、腫瘍の下に生理食塩水を注入し、ワイヤを引っかけて高周波電流で焼き切る内視鏡的粘膜切除術(EMR)がある。
 
ESDは診断範囲を確実に切除でき、取り残しが少ない。
早い場合で1時間以内で済み、一般的に患者負担も開腹手術の半額以下が相場だ。
 
学会のガイドラインはESDを主に2センチ以下のがんが対象と位置づけていたが18年1月の改訂では適応が拡大。
浅い粘膜で、分化型のがんと判断すれば5センチ程度でも実施する病院もある。
進行度合いは大きさより深さが示すためだ。
適応拡大には、習熟度の高い医師が多くなったことが影響している。
 
転移する可能性がある場合は胃の切除手術が必要になる。
胃の切除範囲を最小限にとどめるため、がんの広がりを手術中に把握する「センチネルリンパ節生検」という検査法の臨床応用が期待されている。

現在の標準治療は開腹手術のみだが、早期がん治療で普及するのが、腹部から細長い器具を挿入する腹腔鏡手術だ。
切除範囲は開腹と変わらないが腹部の傷は少なく、出血量も50ccと4分の1以下。
術後の痛みが少なく、回復が早いのも利点だ。
 
例えば、がん研有明病院では17年の腹腔鏡手術が348例で、開腹手術の2倍。
喫緊の課題として高齢化があり、体への負担が少ない腹腔鏡手術が広がっている。
18年改訂のガイドラインも早期胃がんには「日常診療の選択肢となりうる」としている。
 
腹腔鏡手術では手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使うケースも増えている。
4本のロボットアームがついた本体を、少し離れた位置にある機器から医師が操作する。手ぶれ補正や高機能カメラなどの機能で、ミリ単位で繊細に動く。
 
18年4月には保険適用が拡大し、胃がんなども対象となった。
県立静岡がんセンターは、180例の胃がんの腹腔鏡手術のうち50例でダヴィンチを使用。手術費用の患者負担は通常の腹腔鏡手術と変わらない。
 
ただ、自分の手足のように扱えるまで100例ほどの実績が必要となる。
当然のことだが、医師によって技量に差がある。
メーカーによると全国で約350台導入、扱える医師も増えつつある。
 
完治が難しい患者の苦痛の軽減や、がんの進行を抑えるためには、抗がん剤による化学療法が用いられる。
主人の抗がん剤「S-1」や点滴で投与する「シスプラチン」などを状態によって組み合わせる。
 
効率的な投与方法についての研究も進んでおり、最近では、抗がん剤治療でがんを縮小させた後に手術を実施する「コンバージョン手術」が注目されている。

最も進行したステージ4でも、抗がん剤治療後に手術が可能となり、根治した患者さんも複数いる。

*外科・内科合同オペ「LECS」 将来の応用・普及に期待
今後に向け、新たな胃がん手術の選択肢として期待されるのが、外科医と内科医が協力して行う「腹腔鏡・内視鏡合同手術」だ。
局所的な患部の切除が可能な同手術は、英単語の頭文字をつなげてLECS(レックス)と呼ばれる。
 
現在は、主に胃の粘膜の下にできる消化管間質腫瘍(ジスト)に対して実施されている。
 
外科医と内科医が協力する同手術は2006年、がん研有明病院の医師だった比企直樹氏(現北里大教授)が考案。
がん研有明病院などで、内視鏡での治療が難しい胃がん患者に実施された例もあるが、現在は標準治療ではなく、数えるほどしか実施していない。あくまで例外だ。
 
同手術は最初に内視鏡を胃の中に入れて内側から患部を確認し、切除範囲を特定する。
そのうえで腹部から入れた腹腔鏡で、胃の中と外側を同時に観察しながら切除することで、必要最低限の範囲で済む。
 
現状、患部と周りのリンパ節を少し取り徐きたい場合で、開腹と腹腔鏡の中間のような手術法がない。
将来的な胃がんの応用に向け、議論が進んでいる。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.6.24