「疲労臭」とは

ストレスで体からネギ臭? 皮膚から出る「疲労臭」とは バランスよい食事とリラックスで抑制を

緊張したり、疲れたりしたときに「体の臭いがいつもと違うな」と感じたことはないだろうか。
ストレスや疲労で、皮膚から出ているガスの成分が変わることが分かり、研究や応用が進んでいる。
暑くなり、体臭が気になる季節。
どんな対策をすればいいのだろうか。

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2018年、資生堂が「ストレス臭」を特定したと発表した。
性別や年齢に関係無く、面接や試験、プレゼンテーションなどで緊張したり、心理的にストレスがかかったりする状況で、特徴的な臭い成分を含んだガスが皮膚から発生するという。
その成分はジメチルトリスルフィドとアリルメルカプタンの二つ。
約300人分の体臭をかいで研究を続けた同社の K さんは、ストレス臭を「ラーメンの上に浮いたネギの臭い」と表現する。
 
同社の研究によると、ストレス臭は自転車こぎなどの運動では発生しない。
だが精神的なストレスを感じると、5分ほどで出てくる。
発生に個人差はあるが、季節により差はないという。
さらに、やっかいな側面もある。
実験によれば、ストレス臭を2分間かぐと、その臭いのせいで本人だけでなく、周囲の人も疲労や混乱度が増すことが分かったという。
勝山さんは「ストレス臭は、コミュニケーションにも影響を与えてしまう」と話す。
 
皮膚から出るガスは「皮膚ガス」と呼ばれ、100種類以上の物質が含まれる。
①血液中の化学物質が揮発
②血液から汗腺を経由
③皮膚表面で皮脂などが反応
の三つの経路で放散するとされる。

ニンニク料理を食べたり和酒を飲んだりした翌日、体から独特の臭いがしたことがある人もいるだろう。
体調や加齢でも成分が変化する。
筋肉や精神的な疲労によってアンモニアが発生することを見つけ、「疲労臭」として研究を続ける東海大学の S 教授(化学)は、「皮膚ガスは、健康状態とかなり密接につながっている」と話す。
 
糖尿病の愚者では、糖代謝が悪くなることで、皮膚ガスにアセトンが含まれるという。
がんの分野では、犬が飼い主の皮膚がんを見つけたという症例報告が13年、英医学誌に掲載された。
人の10万倍といわれる嗅覚の鋭さで、がんの臭いを検知する「がん探知犬」の研究も進められている。
 
S 教授は「臭いで病気を知るという概念は紀元前のヒポクラテスの時代からあった」と話す。
皮膚ガスは、患者に大きな負担をかけずに採取できるのが利点だ。
「今後の研究の進展によって、血液検査に代わる検査方法として、在宅でも検査ができるようになるかもしれない」とS 教授は期待する。
 
さて、ストレス臭はどのようにケアしたらいいのだろうか。
 
ストレス臭のメカニズムはまだ分かっていないが、短時間で発生するため、ホルモンなど内分泌系の反応で血液中の成分が変化するためと考えられている。
体の内側から臭いを減らすためにも、バランスに気をつけながら野菜を多く採るなど、食事に気をつけることが重要だ。
 
また、そもそもの原因を抑えるには「リラックスすること」と K さんは言う。
ストレスを軽減させるために、落ち着ける音楽を聴くなど自分なりのリラックス方法を見つけるとよい。
ハンドマッマージなど、手軽にできる方法で気分転換することも有効だという。
 
発生してしまった臭いには、ストレス臭を包んで目立たなくする効果があるスプレーや、体を拭くボディーシートを使う方法もある。
ストレス臭の意味とは、生物が自分のピンチを周囲に伝えることではないか。
だから周囲も、頑張っているんだと温かく見守ることが必要かもしれない。

朝日新聞・朝刊 2019.6.16