例外的「混合診療」先進医療より条件緩和

例外的「混合診療」先進医療より条件緩和 「患者申出療養」導入から1年、課題は

保険外診療に伴う診察や検査について、例外的に公的医療保険を適用する「患者申出療養」が昨春、始まった。
命にかかわる病気と闘う患者の思いに応え、臨床研究として行われる。
だが、参加条件の緩和で有効性や安全性が十分検証できない可能性がある。

胃がん転移で初適用
大阪府に住む50代女性は昨年11月、人間ドックで胃がんが見つかった。
がん細胞が胃の外側の膜を破って、おなか(腹腔)の中に種をまいたように散らばる「腹膜播種)」とわかった。
この転移がある胃がんは手術が難しく、5年生存率はほぼゼロと言われている。
 
女性は昨年末、胃がんの腹膜播の臨床研究が行われることを知り、実施施設の一つの近畿大病院(大阪狭山市)を受診した。
 
研究は、内服と静脈点滴用の2種類の抗がん剤を使う。
点滴薬はおなかに取り付けたチューブで直接腹腔内にも投与する。
静脈点滴だけでは腹腔内のがん細胞まで届きにくいという欠点を補えるかどうかを確かめる研究が進められている。
 
使われる抗がん剤はいずれも承認済みだが、「腹腔内投与」という用法は未承認。
厚労省は「患者申出声養」の第1号として、腹腔内投与に使う抗がん剤以外の薬や診察、検査に公的医療保険の適用を認めた。

女性は、保論外の自己負担は研究のための管理科と薬代を合わせ年間約38万円との説明を受け、研究への参加を決めた。
1回3週間かかる治療を3回受けた。
 
5月中旬、薬の効果を確かめるため、腹腔鏡検査を受けた。
主治医からはあらかじめ「播種が消えていたら、そのまま胃の全摘手術をする」との説明を受けていた。
麻酔から覚めて、夫から全摘手術をしたことを聞かされ、女性は「ホッとした」という。
「自分でも負担できる金額で治療を受けることができてよかった」と話す。

有効性・安全性確認に疑問も
未承認薬などを使う診療を受けると、それに伴う検査や診察の費用も原則すべて自己負担となる。
保険診療保険外診療を併用する「混合診療」を認めると、効果や安全性がはっきりしない診療がはびこり、公的医療保険が無駄に使われるおそれがあるからだ。
 
一方、命にかかわる病気の患者は未承認薬を一刻も早く使いたい。
こうした声を受け、2006年に混合診療を例外的に認める、保険外併用療養費制度ができた。
将来保険を適用するかを確かめる「評価療養」と、保険導入を前提としない「選定療養」がある。
前者は先進医療、後者は差額ベッド代などが含まれる。
  
「患者申出療養」は、安倍首相の諮問を受けた規制改革会議の提言を受け、昨年4月、新たに加わった。
当初の案は、患者と医師の診療契約書を健康保険組合などに提出し、診察や検査への保険給付を受けるというものだったが、患者団体が反発。
厚労省の専門家会議が研究計画を事前審査することになった。
 
申出療養は評価療養と同じく、保険適用を視野に入れているとされる。
だが、患者の思いに応えるという制度の趣旨から、先進医療より臨床研究への参加条件が緩和され、有効性や安全性を厳密には確認できない可能性がある。
  
「腹膜播種のある胃がん患者への抗がん剤の腹腔内投与」も先進医療として行った臨床研究と異なりすでに抗がん剤治療を受けている患者も参加でき、年齢の上限も引き上げられた。
 
大阪大病院の補助人工心臓療法の保険外負担は約1600万円。
将来保険適用されなければ、高額の医療費を負担できる患者だけが恩恵を受けることになる。
 
「安全面はもちろん、費用負担の面でも保険診療保険外診療の併用をむやみに広げるべきではない」と考える患者側の意見もある。

患者申出療養として認められた臨床研究
・腹腹播種胃がんヘのパクリタキセル腹腔内投与
・重症心疾患への植え込み型補助人工心臓療法
・天庖康へのリツキシマブ投与
・髄芽種への未承認薬を用いた末梢血幹細胞移植
保険適用外部分の患者負担額は、同一研究でも施設によって異なる場合がある。
保険適用部分については、負担額に一定の上限を設ける高額療養費制度が適用される

「患者申出療養」導入から1年、課題は 
保険外診療に伴う診察や検査について、例外的に公的医療保険を適用する「患者申出(もうしで)療養」が昨春、始まった。
命にかかわる病気と闘う患者の思いに応え、臨床研究として行われる。
だが、参加条件の緩和で有効性や安全性が十分検証できない可能性がある。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.6.28