がんの免疫療法

がんの免疫療法に脚光 新薬登場、活用の動き

手術・抗がん剤放射線…第4の選択肢に
がん治療の中で免疫療法は手術、抗がん剤放射線に次ぐ第四の治療法として地位を確立しつつある。
小野薬品工業などの新薬発売を契機に、これまで効果を疑問視してきたがんの専門医にも、積極活用する動きが出てきた。
ただすべての患者が受けられるわけではなく、一定の副作用のリスクもある。
受けるかどうかは主治医とじっくりと相談して決めたい。

国の保険初適用
がん免疫療法は、体内でよそモノを排除しようとする免疫反応を使い、がん細胞を攻撃する。
既存の抗がん剤に比べて吐き気や脱毛などを伴う副作用が少ないとされる。
1990年代から徐々に臨床現場で使われるようになった。
ただ治療効果は限定的で、製薬会社の臨床試験(治験)でもなかなか成果が出ず、正式な治療法になっていなかった。

免疫療法の地位が治療現場で飛躍的に向上したのは、昨年9月の小野薬品などによる悪性黒色腫(メラノーマ)向けの治療薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の発売がきっかけだ。
以後、免疫療法の効果を疑う現場の医師の見方が明らかに変わってきた。

この薬は国の保険が適用された初めてのがん免疫療法で、点滴で3週間に1回投与する。
進行して他の治療が難しい患者に対しても、がん縮小が期待できるという。
 
オプジーボはがんを攻撃する免疫細胞の「T細胞」の働きを助ける。
がん細胞は成長するにつれて、T細胞の表面にあるたんぱく質PD-1にくっつき、その攻撃を避けて増えていく。
投与したオプジーボは、患者のT細胞のPD-1を覆い、がん細胞とくっつかないようにして、T細胞のがん攻撃を助ける。
 
他のがんでも、治療効果がある可能性が高い。
同社は肺がんの一種でも臨床試験(治験)を終え、厚生労働省へ薬事申請を済ませている。
このほか、腎細胞がん、頭頸部がん、胃がんなどで治験が進む。
多くのがんで効果を示せれば、現在の治療をさらに進化させる可能性がある。

■一定の副作用も
一方、オプジーボ以外の免疫療法でも治験が進む。
悪性脳腫瘍のがん抗原免疫療法は阪大の杉山治夫特任教授らが開発した。
ペプチドと呼ぶがんの表面にあるたんぱく質の断片を患者に注射する手法だ。
注射によって、T細胞に、攻撃対象のがん細胞を教える樹状細胞の働きが活発になり、治療につながることが分かった。
 
これを受け、大日本住友製薬は2011年から順次、白血病卵巣がん膵臓がんなどの固形がんに対する第1相の治験を世界で実施した。
一部は終了し、第2相の実施を目指している。また、大塚製薬は13年に白血病向けに第2相の治験を始めた。

現在、がん免疫療法の主な対象は、手術ができず、抗がん剤放射線などの治療法では効かない患者だ。
既存治療と併用する例は少ない。
早期に免疫療法を始めて、手術などと併用すれば、再発・転移防止など相乗効果を見込める、と言う。
 
副作用が少ないのが利点の一つといわれる免疫療法でも、オプジーボ甲状腺炎などの自己免疫疾患が副作用として起こる例があるなど、十分に分かっていない面も多い。
免疫療法はがんの新しい治療法として認知されつつあるものの、発展途上だということも頭に入れておく必要がある。

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治療効果に個人差
がん免疫療法の研究は40年に及ぶ。
黎明期の1970年代にはBCGや丸山ワクチンなど第1世代と呼ばれる治療法の研究が始まった。
その後、体の樹状細胞やT細胞を取り出し、活性化して戻す手法などが研究されてきた。
だが、免疫療法の多くは科学的な成果がまだはっきりしていない。
患者のリンパ球の機能によって、効く人と効かない人との差が大きい。
 
患者の自己負担による自由診療で実施している医療機関に、治療法がなくなった患者がすがるような思いで受診。
高額な治療費を支払ったものの、明確な効果が出ない例もある。


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出典
日経新聞・夕刊 2015.8.6