がんに効果、副作用少ない「ゲノム医療」

がんに効果、副作用少なく 「ゲノム医療」4月から始動

がん患者の遺伝子を調べて、患者ごとに最適な治療薬を選択する「がんゲノム医療」が4月から全国で始まる。
より効果が高く、副作用が少ないがん治療が実現し、治療の目安になる5年生存率の向上も期待される。
検査でがんの原因となる新たな遺伝子の異常が見つかれば、新しい抗がん剤の開発にもつながる。
先行する欧米に対し、日本の巻き返しが本格化する。

がんゲノム医療は患者のがん組織や血液中の細胞から遺伝子の情報が記録されているDNAを抽出し、がんに関連する遺伝子を網羅的に検査。
どの遺伝子に異常があるか見つけ、その結果をもとに専門医らが集まってどの治療薬が最適かの選択など治療方針を決める。
検査を受けてから方針決定まで3週間ほどかかることが多いという。
 
従来は肺がん、肝臓がん、乳がんなど臓器別に使う抗がん剤が決まっていた。
しかし、同じ肺がんでも、患者によってがんの原因になる遺伝子の変異は異なっている。
このため、同じ抗がん剤を投与しても効果や副作用の出方には違いがあった。
 
これに対してがんゲノム医療は遺伝子の異常に合った抗がん剤を使うので、従来より効果が高く、副作用が少ないとされる。
 
例えば、乳がんの治療薬として登場したハーセプチンはHER2という遺伝子が過剰に働いている患者に投与される。
この遺伝子の異常は胃がんでも見つかり、今では胃がんでも保険を使ってこの薬で治療できる。
HER2遺伝子の異常は肺がんや大腸がんなどでも見られ、いろいろな臓器のがんに横断的に効くのではないかと期待されている。
 
また同じ臓器のがんでも、どの遺伝子の異常が原因かの割合は人種によって異なっている。
外国では有効な治療薬が日本では効かない場合もあり、日本のがん患者に適したゲノム医療が必要になる。
 
日本では2015年から京都大学などでがんゲノム医療が始まり、北海道大学国立がん研究センターなどへと広がった。
国も17年度から始まった第3期がん対策推進基本計画の柱の一つにがんゲノム医療を掲げている。
ただ検査法や治療の実施体制は病院によってばらばらで地域にも偏りがあった。
 
そこで厚生労働省は「がんゲノム医療中核拠点」を整備することにした。
中核拠点には遺伝子検査の実施体制や、遺伝性のがんについて患者や家族に説明するカウンセリングが整っていること、臨床試験の実施体制を備え実績があることなど8つの要件が課せられた。
 
同省は公募で中核拠点に名乗りを上げた23施設の中から、国立がん研究センター中央病院など11施設を選んだ。
3月中には中核拠点に遺伝子検査などを依頼してゲノム医療を進める連携病院も決め、4月から全国で誰もが受けられるようにする。
 
ただ、がんゲノム医療を進めるには課題もある。
遺伝子検査を受ける際、保険が使えず、70万円前後と高額なことだ。
国立がん研究センター中央病院は、保険が使えるようにする第一歩として、先進医療の形でがんに関連した114種類の遺伝子を一度に調べる検査の臨床試験を始める。
臨床試験には他の中核拠点病院も参加する見通しだ。
 
臨床試験の対象は学会が推奨する標準的な治療法がなくなった患者などに限られる。
1年で205~350人に実施。どの程度の患者で遺伝子異常が見つかり、新たな治療薬の選択につながったのかなどを評価する。
 
この遺伝子検査は、同省の「先駆け審査指定制度」に指定されており、同センターと連携しているシスメックス体外診断用医薬品として保険適用の承認申請をする準備を進めている。
保険が使えるようになれば患者負担は大幅に軽減され、ゲノム医療の普及にはずみがつくことになる。
 
もう一つの課題は、高額な検査をしてもよりよい治療薬の選択につながるケースが、まだ、さほど多くない点だ。
最もがんゲノム医療が進んだ米国でも新たな治療を受けられるようになった割合は全体の約18%とされる。遺伝子異常が見つかっても治療に使える薬がなかったり、治療薬はあっても患者の容体が悪く使えなかったりするからだ。

「がん遺伝子検査」 
今後、国立がん研究センターなどが中心となってがん遺伝子検査で新たな異常を見つけ、製薬会社が薬の開発を進めることも期待されている。
そうした新薬の開発は、がんゲノム医療の新たな治療の選択肢を見つける割合を高めるカギとなる。

ヒトの遺伝子は全部で約2万5000種類ある。
このうちがんを引き起こすがん関連遺伝子は約500種類とされ、異常が蓄積するとがんになる。がん遺伝子検査はこれらのがん関連遺伝子の異常を一度に調べるが、調べる遺伝子の種類や数によって様々な検査法かある。 
国立がん研究センターなどが開発した検査は114種類、慶應義塾大学などの検査は160種類の遺伝子を使う。
米国では「MSK-IMPACT」と「FoundationOne CDx」が2017年に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2018.3.9


<「がんゲノム」関連サイト>
がんゲノム がんセンターが先進医療申請 一部に保険適用
https://mainichi.jp/articles/20180113/k00/00m/040/146000c
がん患者の遺伝情報を調べ治療につなげるがんゲノム医療に関し、国立がん研究センター中央病院は2018年1月12日、遺伝子検査法を先進医療に申請した。
がんゲノム医療分野では初申請。
先進医療に認められれば一部に公的医療保険が使えるようになる。
今年度中をめどに承認される見通し。
がんゲノム医療は、がん細胞の遺伝子を網羅的に調べ、適した治療薬を選んで使う医療。
臨床研究や自由診療で実施されている。
 
同病院では2013年から民間企業とともに検査機器(次世代シーケンサー)を開発。
研究の一環として患者の遺伝子を調べ、治療につなげてきた。
計画では、治療の選択肢のない最大350人の患者を対象に126種類の遺伝子を調べる。
 
自由診療では100万円程度の検査費用のほか、診察や投薬などの費用も含めすべて自己負担。
先進医療になれば検査以外の通常の診察などは保険(自己負担1~3割)が適用される。
同病院以外の施設も実施する見通し。
 
先進医療は、将来的な保険適用に向けた評価をするために実施する制度。
厚生労働省は、この検査法について、先進医療としての実績を踏まえて19年度の保険適用を目指している。

「がんゲノム」100病院検討・・・18年度から、全国で診療体制整備
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180115-OYTET50047/
がんの遺伝情報を活用し、一人ひとりに最適な治療を選ぶ「がんゲノム医療」について、全国100か所程度の病院が2018年度から患者向けの診療を始める検討をしていることが、厚生労働省への取材で分かった。
 
がんの個別化医療が全国で本格的に動き出す。
 
がんゲノム医療は、がんの原因となる遺伝子変異を調べ、変異に応じた薬を選ぶ治療法。
治療の選択肢がなくなった患者にも効果的な薬が見つかることがある。
 
厚労省は、中心的な役割を担う「がんゲノム医療中核拠点病院」を公募、3月までに12か所程度を指定する方針。
国立がん研究センター中央病院(東京・築地)などが想定されている。
 
中核病院は、患者を直接診療する「がんゲノム医療連携病院」とグループを作り、医療を提供する。
厚労省によると、中核病院と連携病院を合わせ、実施医療機関として100施設程度が検討を進めている。

100種類以上の遺伝子を一度に調べ、変異を突き止める一括検査と分析は、連携病院からの依頼を受け、中核病院が実施。
連携病院は、結果に基づいて遺伝子変異に応じた薬を選定し、治療を行う。
連携病院は患者が受診しやすいように全国に広く整備する。
治療は、中核病院でも受けられる。
 
遺伝子の一括検査はこれまで、一部の医療機関で自費診療や臨床研究で行われてきたが、厚労省は有効性などを確かめたうえで、18年度中に保険診療で行えるようにする計画だ。

今後のがん医療について
1 ゲノム医療の実現
2 アンメットメディカルニーズの充足
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/sanyokaigou/dai11/sanyo9.pdf