遺伝子ごとの最適ながん治療

遺伝子ごとの最適ながん治療へ 医療費削減、国も後押し

がん細胞の遺伝子を網羅的に解析し、患者ごとに最適な治療薬を選ぶ「ゲノム医療」の実現に向け、国立がん研究センターが臨床研究に乗り出すことになった。
約200人の患者を対象に、2016年1月から開始する。同じ臓器のがんでも、がん細胞に起きている遺伝子異常には差異がある。
遺伝子検査を活用することで、治療成績向上や薬代の節約などにつながると期待される。
 
同センターが手掛けるのは「TOP―GEAR」プロジェクト。
同センター研究所が開発した検査キットを使い、患者のがん細胞に起きている遺伝子異常を網羅的に調べる。
一度に約100の遺伝子異常を解析でき、2週間程度で結果が得られる。
解析の品質向上に取り組んだ結果、国際基準に準拠した品質が確保できるレベルに達したという。
 
今年10月に同センター中央病院(東京・中央)に「次世代シーケンサー」など最新の遺伝子解析装置を備えた検査室を設置。
1年で200人ほどの患者を調べられる体制が整った。
これまでは、がんに関連する遺伝子の異常を調べるのに、1つの遺伝子につき2週間ほどかかっていたという。
 
臨床研究ではがん細胞を採取し、どんな遺伝子異常が生じているかなどをみる。
同じ臓器のがんでも、遺伝子異常には複数の種類があり、それぞれ効き目が高い薬が違うからだ。
 
卵巣がんで標準的な治療薬が効かなくなった30代のある女性は、検査キットで特定の遺伝子異常が確認された。
女性はこの遺伝子の働きを妨げる薬の臨床試験(治験)に参加、腫瘍の縮小効果などが得られたという。
 
がん治療では従来、標準的な薬を投与し、その効き目をみて、別の薬に切り替えるといった治療が実施されてきた。
遺伝子解析の結果を活用すれば、患者ごとに最初に投与する薬が異なることが当たり前になるかもしれない。
 
効かない薬を投与するケースが減れば、薬の副作用軽減や医療費削減なども期待できる。
国もこうした観点から、ゲノム医療の実現を推進する方針だ。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2015.12.6