コレステロールと中性脂肪

コレステロール中性脂肪 どうすれば正常化する?

日本の約206万人が患う脂質異常症
偏った食事や運動不足などを原因とすることが多く、放置すれば動脈硬化から狭心症脳梗塞を引き起こし、突然死に至りかねない。
まさかの事態が起こる前に、生活をどう改善すればいいのか、薬物療法はどのように進められるのか。
実は、異常値を示す脂質の種類によって対策が異なるのだ。

LDLは過剰になると動脈の壁に入り込む、HDLはそれを引き抜く
コレステロールには悪玉と善玉があるといいますが、どのような仕組みで脂質異常症が起きるのでしょうか
コレステロールは脂質の一種で、人間の体の中で細胞膜や胆汁酸(消化液)、副腎皮質ホルモンや性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモンなど)の原料となります。
つまり、人体を維持するのに欠かせない物質です。
コレステロールには、悪玉のLDLコレステロール(以下、LDL)と善玉のHDLコレステロール(以下、HDL)があります。
 
コレステロールの7~8割は、体内で合成されています。
このうち悪玉のLDLは肝臓で作られ、血流により全身に送られて有効利用されていますが、過剰になると血中にたまってしまいます。
そうなると、行き場がないLDLは動脈の壁に入り込むしかありません。
これが動脈硬化の原因となります。


一方、善玉のHDLは小腸などで作られ、動脈にたまったLDLを引き抜いて肝臓に回収する役割を果たします。
動脈硬化においては、LDLが高すぎること、HDLが低すぎることのいずれもが問題になります。
 
また、脂質の1つである中性脂肪も、増えると肥満や脂肪肝の原因となり、動脈硬化を引き起こすので注意が必要です。

LDLや中性脂肪が増えたり、HDLが減ったりする原因は何ですか
脂質異常症の約9割は、動物性脂肪に偏った食生活や運動不足、喫煙などの生活習慣によるもので、遺伝からくる家族性の脂質異常症は1割程度です。
脂質異常症は高LDL・低HDL・高中性脂肪の3つのタイプに分かれます。なかでも多いのが、悪玉の高LDL、高中性脂肪の2つで、割合はほぼ同程度です。
善玉の低HDLはそれほど多くありません。

やっかいなのは、健康診断などで検査を受けた人のうち、自分の血中コレステロール値について自覚している人は3割程度しかいないということです。
しかも、数値が異常だと分かったとしても、症状がなければ多くの人は受診しません。
脂質異常症を放置すると、徐々に動脈硬化が進み、狭心症脳梗塞などで突然死に至ることも珍しくありません。
そのため、脂質異常症は高血圧と同様、サイレントキラーと呼ばれます。

LDLが高い人はまず徹底的に動物性脂肪の摂取をやめてみる
脂質異常症で病院に行くと、すぐに薬で治療することになるのでしょうか
家族性の脂質異常症の場合は別ですが、生活習慣が原因の場合は、生活を変えれば改善するはずです。
そのため、通常、すぐには薬を使いません。
高LDLに対しては運動はあまり効きませんが、食事療法は効果が高く、コレステロール飽和脂肪酸の摂取量を減らすと効果があります。
 
食事を変えるにあたり、まずは1カ月間、肉や卵などの動物性脂肪を徹底的にやめてもらいます。
その生活を一生続けるわけではなく、その人の体が食事の変化に反応するかどうかをテストするのです。
食事を変えて反応が出る人は、LDL値が顕著に下がります。
1カ月で20%も下がる人もいるほどです。
反対に、食事を変えても反応しない人には、薬による治療を検討します。
 
また、中性脂肪が高い人には、別のアプローチが必要です。
男性はお酒をよく飲む、女性はお菓子が好き、という具合に男女で傾向がきれいに分かれるので、性別によって生活指導を変えていきます。

最近は「食事に含まれるコレステロールは気にしなくていい」という報道もありましたが、本当ですか
食事に含まれるコレステロールが血中のコレステロール値に与える影響は、個人差が非常に大きいのが特徴です。
日本人は、食事のコレステロールに反応する人・しない人の割合が半々くらい。
コレステロールの摂取量と血中コレステロール値が比例しない人も多いのです。
こうした理由で、厚生労働省が作成する「日本人の食事摂取基準2015年版」では、コレステロールの摂取上限値が撤廃されました。
 
だからといって、好きに食べていいと考えるのは誤解です。
脂質異常症の人の中には、コレステロール摂取量が多いために発症する人も確実にいます。
その人たちのコレステロール摂取量を制限しなければ大変なことになります。
やはり1カ月のテスト期間で食事への反応を見てから、その人に合った生活を見つけることが大切です。

私的コメント
高尿酸血症の治療も食事療法と薬物療法があります。
食事内容の改善も大切ですが、食生活が味気ないものになってしまいます。
薬物療法で尿酸値がコントロールされている人に食生活の注意を続ける必要があるかどうかは、実は詳細には検討されていません。
脂質異常症でも同様で、食事療法で改善した人が(薬物療法を行わず)ストイックな食生活を続けるメリットはよくわかっていまいのです。
この面での研究は、是非進めて欲しいところです。
逆にスタチンには血中コレステロール値を下げるだけでなく抗動脈作用などの他の作用(これを「多面作用」といいます)があります。
服用するデメリットは少ないともいえます。
少なくとも、食事にあまり神経を使わなくてもよいという精神衛生上のアドバンテージ、そして何よりも美味しいものを食べて豊かな食生活を満喫するというメリットがあります。


LDLや中性脂肪が高い場合の薬物療法はどのように?
悪玉のLDLが高い場合は、どのような薬を使うのですか
食事を改善しても効果がなければ、薬を検討します。
でも、動脈硬化がない人に薬は必要ありません。
まずは頸動脈エコーで動脈硬化があるかどうかを調べ、動脈硬化が確認された人に対して薬物治療を行います。
 
高LDLの患者さんに対して、9割以上の割合で使うのがスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)という種類の薬です。
スタチンは安全性と有効性が立証された薬で、約3割の動脈硬化が予防できます。
スタチンは、コレステロールが末梢血管に運ばれた時に、細胞がコレステロールを利用するためのゲート(LDL受容体)を開かせる作用を持っています。
細胞がコレステロールをどんどん受け入れれば、血中にLDLがたまらず、LDL値は下がっていきます。

スタチンの効果を高めるために、エゼチミブ(商品名ゼチーア)という薬を併用することもあります。
エゼチミブは、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬と呼ばれ、コレステロールが小腸から吸収されるのを阻害し、LDL値を下げる働きがあります。
 
また、2016年4月以降、エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ(プラルエント)という新薬が発売されました。
これらの薬はPCSK9阻害薬(プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)という種類の薬で、家族性の脂質異常症の患者さん、もしくは心筋梗塞のリスクが高く、スタチンの効果が不十分な患者さんに対して使われます。
 
PCSK9は、LDL受容体に結合して分解を促進する働きを持ちます。
その結果、血中のLDLは細胞に取り込まれにくくなります。
エボクロマブやアリロクマブはこのPCSK9の作用を阻害し、LDL受容体が分解されないよう働きます。
それにより、血液中の過剰なLDLが減って数値が下がるのです。
 
ただし、いずれも皮下注射による薬で、価格が高いのが難点です。
たとえば月2回の注射であれば、3割負担の人で1カ月に約1万4000円も薬剤費がかかります。
この出費は患者さんにとっては負担です。

中性脂肪が高いタイプには、高LDLとは別の薬を使うのでしょうか
中性脂肪が肝臓で作られる過程をブロックするのがフィブラートで、中性脂肪を下げるのに高い効果を発揮します。
この薬は、リポ蛋白リパーゼ(LPL)という酵素中性脂肪を分解するのを促してくれます。
 
フィブラートの問題は、腎臓の悪い人に使いにくいことです。
多くのフィブラートは腎臓から排せつされるので、腎臓が悪い人が使うとフィブラートがうまく排せつされず、血中にたまってしまいます。
そのため副作用が出やすく、注意を要します。
 
2017年頃には、新しいフィブラートのペマフィブラート(商品名未定)が発売予定です。
この薬は肝臓で分解・排せつされるので、腎機能の心配はいりません。
ただ、新薬は長期に処方できないので、2週間に1回は受診することになります。
その煩わしさから、発売後1年ほどはペマフィブラートの恩恵にあずかる人は少ないかもしれません。

善玉のHDLを増やす特効薬は「運動」
善玉のHDLが低いタイプの人は、何に気をつければいいですか
善玉のHDLには食事はほとんど関係なく、代わりに効くのが運動です。
低HDLの原因は、喫煙、肥満、運動不足の3つですが、多くの場合、運動すれば数値は上がります。
運動は、中性脂肪が高いタイプにも有効です。
 
特に効果的なのが有酸素運動です。
その証しに、マラソン選手はHDL値が高い人ばかりです。
走るなら、少し息がはずむ程度の軽いジョギングがいいでしょう。
ここで肝心なのは継続すること。
中断しないよう、無理のない運動を選ぶ必要があります。
早歩きでも何でもいいので、とにかく続けてください。

私的コメント
実は血液中の中性脂肪とHDLの値には反比例の関係があります。
運動の継続や食事の改善により血液中の中性脂肪が低下することはHDLの増加につながります。
したがって「善玉のHDLには食事はほとんど関係なく・・・」という表現は正しくありません。
 
有酸素運動に加え、筋力トレーニングも重要です。
筋肉の動きが活発になると糖の利用が増え、糖尿病のリスクが下がります。
動脈硬化にはストレスも関与するため、筋肉を使ってストレス解消できれば一石二鳥です。

参考・引用
日経Gooday 2016.9.26