高額な薬物療法

高額な薬物療法 どう考える

手術と抗がん剤放射線治療に続く4番目の有力ながん治療法として注目されているのが、オプジーボに代表される「免疫チェックポイント阻害薬」だ。
 
免疫細胞は常に体の中を監視し、細菌、ウイルスなどのほか、がん細胞も異物として排除する。
しかし免疫の働きが強くなりすぎるとアレルギーや関節リウマチといった自己免疫疾患などが発生してしまう。
免疫力を自ら抑制する仕組みが備わっており、これは「免疫チェックポイント機構」と呼ばれる。
 
がん細胞は正常な細胞から「進化」する際、色々な能力を身につける。
その一つが免疫から逃れる「免疫逃避」だ。
がん細胞はPD―L1という物質を作り、免疫細胞にできる物質(PD―1)と結合させ、免疫細胞の攻撃にブレーキをかける。
 
オプジーボはPD―1と結合しPD―L1でかけられたブレーキを解除し、免疫細胞の攻撃を再開させる。免疫チェックポイント阻害薬にはオプジーボと同様にPD―1に結合するキイトルーダのほか、PD―L1に結びつく薬剤も開発が進んでいる。
 
免疫チェックポイント阻害薬は従来の免疫力を高めるタイプの治療法と違い、はっきりとした効果があり、オプジーボ、キイトルーダは保険薬として認められている。
特に一定の患者では長く効果が維持され、全身の転移が消えたまま3年以上元気で暮らせるケースも珍しくない。
かつての「転移→余命告知」は過去のものとなりつつあると言える。
 
しかし、免疫力の調整機能に強引にブレーキをかけるわけだから、免疫細胞が正常な臓器をも攻撃しやすくなり、副作用も起こりやすくなる。
また、費用も非常に高く、オプジーボは当初の半額以下まで値下げされたが、それでも年額1300万円以上の医療費がかかる。
ただ、進行した肺がんや胃がんなどは健康保険が使えるから、個人の負担額は限られる。
 
オプジーボの2016年の売り上げは1千億円超だったが、これは放射線治療全体の医療費とほぼ同額だ。
今後も次々と開発されるがんの超高額な薬物療法をどう考えていくかは、国民皆保険制度を維持する上で非常に重要だ。

執筆
東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・一部引用
日経新聞・夕刊 2018.8.1