がん免疫療法を開発 ノーベル生理学・医学賞

がん免疫療法を開発 画期的新薬 実用化も 抗体使い体の真価発揮 ノーベル生理学・医学賞

自然科学分野の2018年のノーベル賞を受賞する科学者が出そろった。
生理学・医学賞は、京都大学本庶佑特別教授が米研究者と共同受賞する。
がん細胞が、体に備わる免疫を逃れている仕組みを解明し、新しい治療薬の実用化に道を開いた成果が評価された。
同賞を受賞する日本の研究者は1987年の利根川進・米マサチューセッツ工科大学教授以降、5人目となる。物理学賞は、レーザーの新しい応用開発に功績のあった米国とカナダの3人の研究者に決まった。
1人は女性で、物理学賞では63年の受賞者以来3人目だ。
また化学賞は、生物進化の手法をまねてたんぱく質を人工的に改変する技術を開発した米英の3人の研究者が選ばれた。
抗体医薬品やバイオ燃料などの開発に応用されている。

生理学・医学賞には、本庶特別教授と米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授の2人が選ばれた。
体に備わる免疫を利用してがんを攻撃する仕組みを解明し、一部のがんを効果的に治療する新薬開発につながった成果が高く評価された。
「がん治療の全く新しい原理を確立した。世界で年数百万人もの命を奪うがんとの闘いで、極めて高い効果を示した」。
ノーベル賞の選考を担うスウェーデンカロリンスカ研究所は1日、両氏の業績をこうたたえた。

がん細胞は体内で1日に数千個生まれているという。
抗がん剤を使う化学療法は外科手術、放射線治療と並ぶ治療の柱だ。しかし抗がん剤は正常な細胞にも作用し、嘔吐や脱毛などの副作用を起こす。
特定のがん細胞だけを攻撃する分子標的薬が登場したが、次第に耐性が出てくるうえ転移や再発を抑えられない限界もみえてきた。

一方「体に備わる免疫力を高めて治療すればいい」という発想も古くからあり、がん免疫療法が試みられてきた。病気にかかったと勘違いさせて免疫細胞の働きを促す「がん免疫薬」の歴史は、ほぼ半世紀に及ぶ。だがはっきりした効果を確認できなかった。
ある免疫研究者は「がん免疫薬は眉唾物という時代が続いた」と振り返る。

1990年代前半、本庶特別教授らが見つけた免疫細胞の表面にある「PD―1」という分子と、アリソン教授らが機能を調べた「CTLA―4」がこの状況を変えた。
がん細胞が免疫を逃れる際にこれらの分子をうまく使いこなしていた。

PD―1分子ががん細胞の表面にある分子「PD―L1」と結合すると、免疫はがんを攻撃しない。
PD―1につく抗体を使うとこの結合を抑え、がんへの攻撃が始まる。
CTLA―4の仕組みも基本的に同じで、CTLA―4につく抗体を使うと、がんへの攻撃のスイッチが入る。

各分子を標的にした薬は、免疫のブレーキを解除するわけだ。
その働きはPD―1の方がCTLA―4より強い。
自動車に例えるとPD―1がブレーキに、CTLA―4はサイドブレーキに相当する。

私的コメント;
誰しもが思うことですが、PD―1とCTLA―4の両者に作用するようにすればいいのではということです。
後述される「ヤーボイ」と「オプジーボ」との併用はいかがなものでしょうか。
(薬価は目の玉が飛び出るほど高いのですが)
もう一つの疑問はPD―1とCTLA―4に作用する薬剤そのものの副作用です。

製薬業界の期待は膨らみ、米大手のブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が先陣を切った。
アリソン教授の成果をもとに2011年に米国で「ヤーボイ」(一般名イピリムマブ)を発売した。
日本では小野薬品工業BMSと協力して14年、本庶特別教授の成果をもとに「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)を日本で発売した。

オプジーボは従来の抗がん剤が効かない末期がんの患者でも高い効果を示した。
皮膚がんの一種から肺がん、腎臓がんへと適用を広げた。
他の薬と併用する試みも広がっている。

課題もある。
効く患者の割合が2~3割にとどまる点だ。
なぜ7~8割の患者で効果が出ないのか原因は不明で、研究者は解明を急いでいる。
正常な細胞を攻撃する自己免疫疾患の副作用も報告されている。
また薬価が年1000万円以上と高く、闇雲な投与は医療財政に打撃を与えると懸念されている。

がんは日本人の半数が患い、3人に1人が亡くなる。無駄な投薬を省いてより効果を高める研究が重要になる。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2018.10.8