ペプチド 副作用少なく 産学で実用化へ

ペプチド 安価な新がん薬  副作用少なく 産学で実用化へ 

革新的な医薬品を生みだそうと、たんぱく質の断片である分子、ペプチドへの関心が高まっている。

高い効果が見込め成長著しい抗体医薬と、安価に作れ伝統的な低分子医薬品のいいとこ取りができると考えられ、がんや感染症などの治療薬を目指して産学連携が活発だ。

患者の救済や医薬品産業の活性化につながると期待が膨らんでいる。

 

中部大学(愛知県春日井市)の一室で、研究員が白い液体が入った容器を機械に載せて振動させ、中身を混ぜ合わせている。

「医薬品として有望なペプチドを大量に合成する手法を研究している」と教授は説明する。

 

ペプチドはアミノ酸が2~100個程度つながった比較的小さな化合物だ。

鍵と鍵穴の関係のように、標的とする生体内にあるたんぱく質にうまく結合する特色がある。

 

中心的な医薬品に育ってきた抗体医薬と同じ仕組みだが、抗体は遺伝子を組み換えた動物の細胞で培養するなど製造コストが高くなり、巨大な分子で点滴で投与しなければいけないなど課題も多い。

前述の教授らは化学合成が可能なペプチドに目を付け、抗体医薬の代替を狙っている。

 

ただペプチドの合成にも改良が必要だった。

既存の手法は約50年前に開発されアミノ酸を1つずつつなげていた。

効率が悪くアミノ酸を長くつなげたペプチドを作るのが難しかった。

不純物を取り除く精製作業も何度も繰り返すため、有害な副産物や排水が大量に出る課題もあった。

 

教授は7月に「ルイス酸」と呼ぶ触媒を使って不純物が出るのを防ぎ、1回の合成のたびにペプチドの長さを2倍ずつ増やす手法を開発した。

64個のアミノ酸がつながったペプチドを作るのに従来は63回もの反応を繰り返さなければいけなかったが、新手法なら6回で済む。

国内の製薬企業と協力して新手法を広めていく考えだ。

教授は「抗体医薬の次に来るのはペプチドの時代だ」と力を込める。

 

東京大学発のバイオベンチャー、ペプチドリームと米製薬大手のブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)は、免疫の働きを改善してがん細胞を攻撃する抗体医薬として話題の「オプジーボ」をペプチドで置き換えようと共同研究中だ。

オプジーボは点滴薬なので患者は通院する必要がある。

ペプチドなら飲み薬になり、患者が家で治療できると言う。

 

がん細胞の表面にあるたんぱく質「PD-L1」が標的だ。

ペプチドリームが開発した候補薬は抗体の数百分の1の大きさで、腸で吸収されがん細胞に届く。

注射薬として第1相の臨床試験(治験)をすでに終え安全性などを確認済みだ。

BMSが今後、注射薬と飲み薬のどちらで開発を進めるかを決める。

またオプジーボは重い肝機能障害や肺炎などの副作用が報告されている。

ペプチドは体内で比較的短時間で分解される。

標的以外のたんぱく質には作用しにくく副作用を抑えられる点も魅力になるとみている。

 

膵臓がん治療用のペプチドを目指すのは、新潟大学エーザイの米国子会社だ。

膵臓がんの細胞の表面に多い受容体に付いて細胞内に入るペプチドに抗がん剤を付ける戦略を立てる。

他のがん細胞に比べ膵臓がんには10~20倍もよく集まる作用を確認できた。

膵臓がんの10年生存率はわずか5%と、がん全体の56%を大きく下回る。

治療成績を改善できると考えている。

 

感染症対策にペプチドを使おうとする試みもある。

東大では、耐性菌の出現が問題になっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)に強く効くペプチドを3種類作った。

既存のペプチド抗生物質よりもMRSAを殺す能力がいずれも4倍高い。

低分子薬が多い従来の抗生物質に比べ細菌を効率よくたたけるという。

 

日本の製薬企業は得意の化学合成を生かし1990年ごろまで優れた低分子薬を市場に送り出してきた。

2000年代に入ると欧米大手が相次いで投入した抗体医薬が市場を席巻し、医薬品と医療機器の分野の日本の貿易赤字は今や年3兆円に達する。

新薬開発の難易度は増し、1千億円単位の費用と10年前後の期間がかかり、成功率は約3万分の1とされる。

低分子薬や抗体医薬に続く第3の医薬品としてペプチドにかかる期待は大きく、日本の製薬が

復活するチャンスになる可能性もある。

 

抗体医薬 大量生産できず高価格

細菌などの外敵を攻撃するため体内の免疫細胞が作りだすたんぱく質を応用した医薬品を指す。

病気を起こす特定の分子に結びついて効果を発揮する。

ハムスターなどの動物の細胞に遺伝子を導入して生産する。

日米欧で70品目を超える抗体医薬が承認され、関節リウマチやがんの治療薬が普及している。

 

従来の低分子薬に比べて副作用が小さく治療効果が高く、21世紀に入り開発が盛んになった。

化学合成で大暑生産できないため、価格が高くなる。

小野薬品工業などが販売する

 

オプジーボ」は2014年の発売当初、薬価が年間3500万円に達して議論を呼んだ。

ペプチドは抗体医薬の利点を受け継ぎながら化学合成で安く量産できる長所をもつ。

 

参考・引用一部改変 

日経新聞 2019.10.13

 

 

新薬の有望候補 従来の10倍速で発見 ペプチドリーム・富士通 

バイオスタートアップのペプチドリームと富士通はこのほど、創薬分野の共同研究を開始した。

安くてよく効く薬を開発できると期待を集める「ペプチド」を応用する創薬プロセスで、富士通の高速コンピューター技術を活用し、10倍速で有望な候補を見つけられるようにする。

新薬登場までの期間短縮につながる可能性がある。

ペプチドはアミノ酸が複数つながった物質のこと。

新薬を開発するには、数兆種類あるペプチドの中から有望候補を絞り込む必要がある。

この作業に、富士通の高速コンピューター技術「デジタルアニーラ」を使う。複数の条件を並行して計算する「組み合わせ最適化問題」を得意とし、候補の絞り込みに必要な作業とも相性がよいという。

 

スーパーコンピューターを使った既存のシミュレーションでは1種類の候補を識別するのに数日かかっていたが、デジタルアニーラでは数分で完了する。ペプチドリームでは「有望候補の特定に3カ月かかるケースを10日前後に短縮できる」と話す。

 

デジタルアニーラは量子力学を応用する量子コンピューターと応用範囲が重なるが、現状では安定性でデジタルアニーラに分があるとされる。

ペプチドリームは安定性と医薬関係に詳しい研究者がいる点に期待して、共同研究のパートナーに富士通を選んだ。

 

ペプチド創薬は近年、スイスのノバルティスや英アストラゼネカといった製薬大手がこぞって研究開発に取り組む注目分野だ。

副作用が少なく効果が高い医薬品を、比較的安価に作れると期待されている。

 

ペプチドリームは兆単位のペプチドを短時間で作り出す技術に強みを持ち、製薬大手と複数の共同研究に取り組む。

デジタルアニーラによる候補の絞り込み作業が成果を上げれば、製薬大手との創薬のスピード向上にもつながる。

 

参考・引用一部改変 

日経新聞 2019.9.20

 

 

<関連サイト>

ペプチド 安価な新がん薬

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/728

 

オールジャパンで挑む夢の新薬 特殊ペプチド実用化で売上目標4兆円

https://www.sankei.com/west/news/180611/wst1806110003-n1.html

 

創薬の世界を変える救世主、ペプチドリームが新しく追加に! 

https://froggy.smbcnikko.co.jp/19162/

 

ペプチド医薬品の社会的意義

http://www.jitsubo.com/peptide/social_meaning

 

創薬に新たな道を拓いたペプチド探索システム

https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201804peptide/index.html

 

ペプチド医薬品の開発に期待

https://www.yakuji.co.jp/entry19364.html

 

中分子医薬品の原薬 年間100kg超製造可 国内最大 ぺプチスター新工場竣工

https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=67790