コロナ治療「本命」の抗体医薬、米で実用化段階に

コロナ治療「本命」の抗体医薬、米で実用化段階に  量産・供給のハードル高く 

新型コロナウイルス感染症の治療で本命とされる「抗体医薬」が実用化段階に入った。

米社が開発中の新薬が相次いで米国内で条件付きで使用できるようになった。

現在の治療薬の多くは他の病気向けの転用だが、抗体医薬は新型コロナの特化薬だ。近く一部接種が始まる見通しのワクチンとともに、コロナ克服への道を開く可能性がある。

 

「抗体医薬」は、コロナウイルスと結合し、無力化するたんぱく質「抗体」を薬として使う。

回復した人の血液中の抗体などをまねて人工的に作る。

主に軽症から中程度の患者向けとされ、早めの投与で重症患者も減らせると期待されている。

 

米食品医薬品局(FDA)は21日、米リジェネロン・ファーマシューティカルズが開発していた抗体医薬の緊急使用を許可した。

トランプ米大統領がコロナに感染した際に使った薬で、まだ正式な承認ではないが、他に有効な治療法がない場合などに使用を認めた。

 

治験の暫定結果では、入院していない軽症から中程度の患者の体内のウイルス量が低下した。

FDAは声明で、「入院や救急治療の減少が示された」と指摘した。

 

FDAはすでに、今月上旬に米製薬大手のイーライ・リリーの抗体医薬「バムラニビマブ」にも緊急使用許可を出した。

同社の第2段階の治験では、投与した患者のうち入院や集中治療室(ICU)での治療が必要となったのは1.6%で、重症化を抑えた。

 

島根大学の浦野健教授は「早い段階で体内のウイルスの増殖を抑えれば、重症化リスクも減らせる可能性が高い」と抗体医薬の効果を指摘する。

 

現在の新型コロナの治療薬は、他の病気向けに開発されたものだ。代表例の抗ウイルス薬「レムデシビル」はエボラ出血熱向けに開発中だったもので、免疫の暴走を抑える「デキサメタゾン」は、リウマチなど向けだ。

 

ただ、効果のばらつきや、使い方の難しさなどが指摘されている。

レムデシビルについては、世界保健機関(WHO)は「入院患者への投与は勧めない」としている。日本では一定の効果を認める医師も多いが、評価は各国で分かれている。

 

抗体医薬の開発は急ピッチで進む。保留中も含めて世界で現在20近い候補が治験中で、このうち最終段階に進んでいるものも複数あるという。

 

一方で、抗体医薬の治験に関してのデータや評価はまだ出そろっていない。

副作用も未知数だ。緊急使用許可が出た2つも最終治験を続けて検証している。

 

もうひとつの課題はコストだ。一般に抗体医薬は高額になりやすい。

がん治療などで使用が進むが、日本の薬価ベースで1治療当たり数百万円かかることも多い。

 

コロナの治療薬として効果が認められても、世界中で多くの患者が費用を負担できない可能性もある。

米政府は、イーライ・リリーと3億7500万ドルの契約を結び、緊急使用許可の間は、薬については患者の自己負担なしで提供する見通しだ。

抗体医薬の普及には、対象患者などの議論も不可欠となる見通しだ。

 

■ 国内では武田など先行

 米リジェネロン・ファーマシューティカルズや米イーライ・リリーが緊急使用許可を受けた抗体医薬が正式に米国で承認されても、現時点で日本で使える見通しはない。

代わりに、武田薬品工業などの「免疫グロブリン製剤」を中心に開発が進む。

10月から国内外での最終治験が始まっており、早ければ年内にも治験結果がまとまる予定だ。

 武田の免疫グロブリンは「天然の予防抗体」といわれ、新型コロナから回復した患者の血液中の抗体の集まりだ。リリーやリジェネロンの抗体医薬が人工的に設計されたのに対し、免疫グロブリンは患者の体内にあったもので、効果も高いとされる。

量産もしやすい。

 

リリーなど抗体医薬のメーカーは治験の地域を限定しており、日本でも実施されていない。

大きな理由は抗体医薬の供給に課題があるからだ。

 

抗体の量産には時間と手間がかかる。

抗体を生成する細胞を培養し、抗体を取り出し精製するが、大量生産に必要な専用のタンクを新たに準備するには1~2年程度要する。

各国への供給に向けた量産の壁は高い。

 

日本では政府を中心に、まず免疫グロブリン製剤を使用できるようにして、その後にリリーなどの抗体医薬の導入を検討しているとみられる。

国内で治験が実施されなくても、海外で有効性が証明されていれば「特例承認」という枠組みを活用できる。

「レムデシビル」と同様に供給体制さえ整えば、早期承認は可能という見方が濃厚だ。

 

▼ 抗体医薬と免疫グロブリン製剤 

抗体医薬は、ウイルスや細菌などの外敵を排除するため、体内の免疫細胞が作り出すタンパク質「抗体」を活用した医薬品。がん細胞やウイルスなどにピンポイントで結合する。動物の細胞に遺伝子を入れて作る。

化学合成で大量生産する一般的な低分子薬と比べて高価になりやすい。 

日本ではがんや、リウマチなど免疫関連の疾患の治療薬として60種類以上が承認されている。

 

免疫グロブリン製剤は、健康な人や回復した人から提供を受けた血液から抗体としての機能・構造を持つたんぱく質を取りだしたもの。

川崎病などの病気の治療で使われている。

血液から作るため、有効性などは比較的高いといわれている。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2020.11.24

 

<関連サイト>

抗体を使った主な新型コロナ治療薬候補

https://aobazuku.wordpress.com/2020/11/24/抗体を使った主な新型コロナ治療薬候補/