日本発、乳がん新薬に期待 ②

日本発、乳がん新薬に期待 ②

がん治療で使う抗がん剤の順番は、科学的データをもとにがんの種類などによって決まっている。

HER2陽性で再発や転移した乳がんの場合、最初に使う抗がん剤はHER2に付く2種類の抗体を薬にしたハーセプチン、パージェタと、従来薬のドセタキセルの計3種類だ。

2回目に、薬物が平均で3~4個付くADCのカドサイラを使う。

いずれも1年から1年半程度で効かなくなり、次の抗がん剤へ移ることが多い。

 

エンハーツはそれらに続く3回目に使う薬として20年1月に米国で、5月に日本で登場した。

日本では抗がん剤治療を経たHER2陽性の患者で、手術ができないか、再発して標準的な治療が難しい人が対象だ。

日本と欧米アジアの8カ国で最終段階の前の「第2相」治験を実施。

3回目以降で使用した184人を評価すると、がんが消えるか30%以上縮んだ患者は112人(61%)だった。

がんが進行せずに病状が安定していた期間は中央値で16.4カ月と、既存薬の3回目(6.2カ月)の2倍以上だった。

 

がんは信仰するほど、新たな薬が効く期間が短くなることが多いため、新薬の評価は高く、第2相までの結果で日米欧などで製造販売の承認を得た。

日本では条件付き早期承認の対象になった。

 

実際に治療に使っている臨床現場でも手応えが広がっている。

(薬の)切れ味がよい上に、3回目の治療で使っても2年近く効く人も多い。

 

適用拡大の動きも活発だ。

乳がん向けでは、1~2回目の治療薬として前倒しして使う第3相の治験を、欧米日などで実施している。

さらに乳がん細胞に出るHER2の数が少ない患者向けにも、第3相の治験を欧米アジアの20カ国・地域で進めている。

手術の前にエンハーツを投与し、がんを縮める第3相の治験も進行中だ。

それぞれ、第一三共アストラゼネカが協力して開発を進めている。

これらの治験が成功すれば、乳がん患者の65%程度をカバーできる可能性がある。

 

一方で、副作用への注意も必要だ。

第一三共によると、乳がんの第3相治験で投与を受けた257人のうち、27人(10.5%)が間質性肺炎になった。

日本人は頻度が高い。

一般的には肺を手術したり機能が低下したりしていると、リスクが高いとされる。

 

間質性肺炎を防ぐために、現場ではチーム医療を進めることが重要だ。

がん治療で普及が進む免疫チェックポイント阻害剤でも間質性肺炎の副作用が生じることがある。

 

他には血球の減少や貧血、嘔吐や吐き気、脱毛が主な副作用だ。

エンハーツは第2相までの治験のデータを使い、日米で早期承認を得た。

現在は第3相の治験で、効果の検証を進めている。

投薬を受けた患者が増えれば副作用の詳細がわかり、対策も進みそうだ。

エンハーツのような画期的な薬が日本で生まれたのはインパクトがある。

抗体医薬などの最新の薬は欧米発のことが多い。

日本発の治療のモデルケースにもなりそうだ。

 

適用拡大で財政懸念も

エンハーツの薬価は100ミリグラムあたり約16万5千円。

体重60キログラムの人が1年間使うと、900万円程度の薬代がかかる。

高額療養費制度を使えば、1ヵ月の個人負担は年収などに応じて抑えられる。

適用が広がり使う患者数が増えれば、医療財敢への影響を懸念する声も出るかもしれない。

 

日本発の画期的な新薬として注目を集めたオプジーボは発売当初、「高

額」との批判を浴び、その後の適用拡大で薬価が切り下げられた。

医療財政からは適切との見方がある一方で、多額の研究開発費を投じた新薬の薬価がすぐに下がれば、企業が日本に新薬を投入する動機が失われる。

 

かつての低分子薬から抗体医薬などのバイオ医薬品が主流になるなかで、創薬の促進にも目

配りした政策が求められる。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.12.21