遺伝性乳がん、待望の新薬「オラパリブ」

遺伝性乳がん、待望の新薬

再発後向けの「オラパリブ」、昨年承認
再発後の遺伝性乳がん向け治療薬が昨年(2018年)7月、国内で承認され、使えるようになった。
遺伝性腫瘍への初となる治療薬の登場は、患者の選択肢を広げる。
その一方、治療方針を決めるには、遺伝性のがんかどうかを検査することになり、カウンセリング体制の整備が急がれる。

愛知県内に住む女性(40)は2009年に乳がんが見つかり、摘出手術と放射線治療を受けた。
4年後に再発がわかりホルモン療法や抗がん剤治療を続けてきた。
 
昨年末、腫瘍マーカーの数値が上昇。
新しい薬「オラパリブ(リムパーザ)」を使えないかと主治医に相談し、必要な遺伝子検査を受けた。
「遺伝性のがん向けの薬があれば、検査を受ける意味がある。進行・再発の人向けの選択肢が増えるのはいいこと」と話す。
 
遺伝性乳がんは、原因の一つに遺伝子BRCA1、BRCA2の変異があることが分かっている。
家族性腫瘍の中で最も頻度が高いとされ、乳がん患者全体の7~10%と考えられている。
13年には、ある米国女性俳優がBRCA1の変異があると告白。
がん予防のために乳腺を切除する手術を受け話題になった。
 
BRCA1、BRCA2は誰もが持っている遺伝子で、紫外線や化学物質の刺激などにより、日々損傷を受けるDNAを修復する機能をもつ。
変異があると、遺伝子にできた傷を修復しにくくなり、変異がない人に比べて6~12倍、乳がんになりやすいとされる。
 
遺伝性乳がんの治療薬として新たに承認されたオラパリブは「PARP阻害剤」という種類の分子標的薬で、DNA修復機構を利用して、がんを細胞死させる。
薬の対象は再発したり手術ができなかったりする状態で、BRCA遺伝子変異のある乳がん患者。
抗がん剤の治療歴があり、がん細胞の表面にあるHER2というたんぱく質の標的が無いことも条件になる。
 
薬は錠剤で基本的には1日2回飲めばよく、外来通院で治療できる。
臨床試験(治験)で報告されている主な副作用は、悪心や貧血などだった。
薬を使うにはBRCA遺伝子に変異があるかどうかの検査が必要になる。
7ミリリットルを採血し、結果は約3週間でわかる。
費用は約20万円だが保険が使えるため、自己負担はその1~3割となる。

親族にも影響、カウンセリング重要
検査は治療方針を決めるためのものだが、同時にがんが遺伝性かどうかも明らかになる。
患者だけでなく親族にも影響を及ぼすため、患者への医師からの丁寧な説明や、カウンセリングが不可欠になってくる。
 
がん研究会有明病院の乳腺センター長は「これまでは一部の遺伝専門の医師らが、遺伝性腫瘍について説明してきた。今後は、再発を知りショックを受けている多くの患者に、遺伝医療に不慣れな主治医がまず、説明しなければならない」と話す。
 
検査は原則、遺伝カウンセリングができる病院やそうした病院と連携する病院で実施する。
年約9万5千人が乳がんと診断される中で、遺伝医療に詳しい「認定遺伝カウンセラー」は全国に250人ほどで不足が指摘される。

聖路加国際病院の遺伝診療部よると、これまで同病院で遺伝カウンセリングを受けたのは家族にがん経験者が多く、再発への不安などから調べたいという人がほとんど。
親族への影響や遺伝性と分かった場合に予防できる可能性について説明を聞き、実際に検査を受けた人は5~6割だったという。
 
しかし、オラパリブの登場で状況は一変した。
薬が承認された昨年7月以降、同病院では約50人の再発乳がん患者が検査前の遺伝カウンセリングを受け、ほぼ全員が検査を受けたという。
その中には、これまでは「知りたくないから」と検査を受けなかった患者もいたという。
同診療部では「患者さんは再発後で治療によって体への負担がかかっている。少しでも不安なく受けられる医療にしていかなければいけない」と話す。
 
日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構は、遺伝性腫瘍の知識を持ち相談にのれる医師や看護師を増やそうと研修を進めている。
遺伝専門医や遺伝カウンセリング体制が整備されている施設を評価、認定もする。
常勤の遺伝専門医がいる基幹施設など55施設を認定し、サイト(http://johboc.jp/shisetsulist/)で公表している。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.1.23