認知症の最前線(上) AIで高精度な画像診断

AIで高精度な画像診断 熟練医師の不足 解消に道

年をとれば誰もがなる可能性がある認知症
2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が発症するとの推計もある。
これまで以上に身近になる認知症と今後どう向き合っていくのか。
診断精度を高めようと医療現場への人工知能(AI)導入に向けた動きが進むとともに、地域では患者が快適に過ごせる環境づくりへの取り組みも増えてきた。

脳ドックは従来、脳梗塞の検査などを目的に高齢層が受診することが多かったが、最近は認知症を心配する若年層が受けるケースも目立つ。
東京のあるクリニックの「スマート脳ドック」では多い日には30~40代を中心に50人以上が来院、開院から1年の受診者は1万4000人に達した。
ここで記者は磁気共鳴画像装置(MRI)の検査を受けてみた。
約10分で終了し、数日後に結果がスマートフォンスマホ)に届いた。
頭部から首にかけての約500枚の画像に医師のコメントが添えられ、幸い異常はなかった。

脳の血流が滞った部分が白っぽく見える白質病変や脳動脈瘤があれば画像に印が付き、専門医に紹介される。
これらは脳血管性認知症を起こしやすい。
脳ドックだけでは認知症を診断できないが、きちんと読影すれば兆候はとらえられる。
白質病変でも5段階区分の「グレード1」(早期)なら自覚症状はまずない。
睡眠確保や運動など生活改善で病変なしの「同0」に戻せるケースも多く、早期診断は意味がある。
アルツハイマー病と関係が深く、記憶を担う海馬の萎縮が見える場合もる。
検査精度を上げるため、MRIのデータはオンラインで画像診断サービス会社に送られ、放射線科と脳外科の担当専門医が二重にチェックする。
この画像診断サービス会社はベンチャー企業と診断支援のAIも共同開発している。
動脈瘤の検出などから順次活用を始めており、利用範囲を広げていく予定だという。

認知症は通常、医師の診断や知能テスト、画像診断の結果などを総合的にみて診断している。
ただ、症状がある程度進まないと判断がつかない場合も多い。
こんなとき、AIは頼りになる。
人間では覚えきれない膨大なデータをもとに脳の異変を察知してくれると期待されている。
AIは読影の専門医が少ない地域などで「遠隔地医療」の切り札になる可能性もある。

「AIによる助けが必要だ」という考えの医師も多い。
放射線を含んだ薬剤を注射し、脳の血流量の変化を調べる「SPECT」画像。
認知症の種類を見分けるには有効で、早い段階で分かれば進行を抑えるための対応がとれる。
ただ画像からの診断は専門知識や経験がないと難しく、都道府県によっては数人しか専門医がいない。
このため診断に時間がかかり医師がSPECT診断を避けるという。
AIでのSPECT診断のハードルを下げこのためSPECT診断を助けるAIも開発されている。
2年後にも各地で使えるようにする。
たい」。
島根大学認知症を発症する前の「軽度認知障害」の脳のMRI画像から、いつ認知症に進行するかを予測するAIを研究する。AIを使った診断で、いち早く食事や生活習慣の見直しに取り組めると期待する。
課題はある。AIは脳の異常を見分けるため大量の画像を事前に学ばないといけないが、どの部位が認知症の原因なのか「正解」を示す素材画像が必要で、それを用意するのは医師だ。
国立精神・神経医療研究センター病院の塚本忠・脳神経内科医長は「熟練医師でも判断に迷う画像は多い。AIの導入にはいかに正確な画像を選ぶかが課題。撮影機器の性能向上も必要になる」と話している。

原因や症状で4つの型 生活習慣改善で進行抑制も
65歳以上の認知症患者数は2012年時点で約462万人、25年に700万人を超えると推定される。
大きく4種類に分けられ「アルツハイマー型」が約6割を占めている。
他には脳血管の障害が原因で起こる「脳血管性」と「レビー小体型」「前頭側頭型」がある。
それぞれ症状や治療法が変わるため、個別の対処が重要になる。
 
発症前の「軽度認知障害」の人は12年時点で約400万人との推計がある。
日常生活に支障はないが、認知機能の一部が衰える。
 
認知症に移行する時期は人によって違い、1年で進行する人から5年後も変わらない人まで様々だ。
 
早期に発見しても根本的な治療薬や予防薬はまだない。
ただ糖尿病や肥満などがリスク要因となるため、食事や運動、睡眠といった生活習慣を見直せば発症時期や進行を遅らせられる可能性もある。
 
軽度認知障害の患者を対象にしたフィンランドの研究では、食事指導やトレーニングなどで認知機能が改善した。
生活習慣との関連が実証されれば、早期診断による対策が立てやすくなる。
 
認知症かもと心配になったら、まずかかりつけ医に相談し、その上で神経内科などの専門医を受診しよう。
単なる物忘れの可能性もあり、受診者をよく知る医師だと変化に気づきやすい面がある。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.1.28