認知症の画像診断 MRS

神経細胞の活動状況を把握できるMRS  臨床応用が始まり、検査施設でも導入

高齢者の認知症といえばアルツハイマー病(アルツハイマー認知症)や脳血管性認知症が多数を占める。
が、認知障害を呈する原因疾患は多々ある。

記憶障害が目立たないレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症もあれば、脳腫瘍や転倒などで起こりうる慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症、橋本病など内科系疾患や外傷(主なもので十数種あり)の一症状として認知障害が現れることもある。
 
まずは疑わしい内科・外科系疾患の除外診断が大切であり、予測通り認知症であったならタイプを特定する診断の意義も大きい。
タイプにより薬や対応法が変わってくるからだ。
認知症の根治療法がない現状での早期診断は、早期絶望をもたらすだけとは決めつけないほうがよい。
 
脳の詳細な診断法として注目されるのが脳PETやMRS(MRIでおなじみのMR装置を用いて行うMRスペクトロスコピー)だ。

両者とも以前は主に研究機関の研究用に用いられるだけだったが、臨床応用が現実のものとなり、先進的な施設や検査専門施設でも導入され始めている。
 
詳細なもの忘れドックの先駆けとして知られる京都の武田病院では二日間の通院で通常の人間ドックと脳ドックの合体版に詳しい知能検査も加えた検査が行われる。
 
認知症診療に精通した医師であれば、通常の知能検査と問診や問診時の受け答えからほぼ診断がつくといわれるが、このもの忘れドックで認知症が確実となれば、必要に応じて診断名の確認や病態把握のため、MRS検査が出来る専門施設に紹介されることがある。
 
MRI画像から、脳の記憶に関わる海馬の萎縮などを把握できるが、MRSでは何がどうわかるのだろう。

神経細胞の活動状況を知る
MRSでは脳内の神経細胞や支持細胞(グリア)の生きた活動状況を把握できるので、認知症発症の数年~十年以上前から兆候を掴める。
最近注目される軽度認知障害(MCI)にも適正な診断を下せるので、進行抑制の薬もより適切に使うことができる。
 
脳の萎縮の診断については、MRI画像を見るだけでなく、加齢による標準的な萎縮パターンと患者各人の画像を比較・分析できるVBM - MRIなどの画像診断装置を用い脳の萎縮や神経細胞の脱落(死滅)の程度などを調べる。
 
例えばアルツハイマー病になる危険性の高い人では側頭葉内側や後部帯状回の萎縮が見られるが、ごく初期段階では通常のMRIだと判断が難しい。
VBM - MRIではコンピュータ解析により脳の部位を検出できるので、脳の客観的な三次元構造を把握できる。
海馬の神経細胞マーカーの低下は萎縮が始まる前から生じると考えられているが、MRSでは初期の場合でも神経の脱落の度合により判断できるからだ。
脳血管性認知症でもその特徴である大脳白質線維の神経細胞マーカーを測定できる。
脳血管性認知症の予防には脳梗塞の予防が重要で、それには糖尿病や高血圧などの管理・予防が重要であることは周知のはずだが、アルツハイマー病についても4割に糖尿病などが影響するという。
不安な人は早期診断やもの忘れドックを前向きに検討して欲しい。

怖いほどわかるMRS
検査はMRIと同じ要領で、横になって40分ほど過ごすだけ(ペースメーカー利用者等は禁忌)。
いきなり検査専門施設用してもよいが、まずは認知症診療施設にかかり、MRSの必要性を相談してからでも遅くない

参考
週刊文春 2014.2.13