20~40代男性の毛活

20~40代男性の毛活、早めに 投薬、成長止める物質抑制/移植、細胞注入で再生めざす

20~40代の男性を中心に発症するのが男性型脱毛症だ。
若いころから頭頂部や生え際の毛が薄くなる。
老化とは違って遺伝や男性ホルモンの働き具合が原因で、日本人男性の3割が悩んでいるという。
脱毛を抑える新薬が登場しているほか、頭皮の細胞を移植して毛髪を再生する臨床研究も7月に始まった。
予防は難しいとされ、気になる症状があれば早めに専門医に相談したい。

男性型脱毛症の多くは20~40代の男性で発症し、徐々に進行する。
早い人では10代に発症する。
老化で起きる脱毛症とはメカニズムが根本的に異なる。
60代以降に発症する「老人性脱毛症」は頭髪全体が細くなるが、男性型脱毛症は髪の毛の生え際と頭頂部の毛が局所的に薄くなる。
額と頭頂部で同時に始まる人もいる。
 
髪の毛は、頭皮の内側の真皮層にある「毛包」と呼ぶ器官でできる。
毛包の奥深くに「毛乳頭」があり、ここで毛の成長に必要な栄養を取り込む。
毛乳頭の細胞が指示を出すと、近くの「毛母細胞」が分裂を繰り返し、毛が伸びていく。
 
男性型脱毛症は、思春期以降に増える男性ホルモンの「テストステロン」が関わっている。
血中を巡るテストステロンが毛乳頭の細胞に入ると、細胞内の酵素の働きで「DHT」という別のホルモンになる。
これが、毛乳頭の細胞の中にあるたんぱく質(受容体)とつながると、毛母細胞の分裂を止める「TGF―β」という物質が作られる。
 
髪の毛は細胞の分裂や成長が盛んな成長期、細胞の分裂が衰える退行期、髪の毛の成長が止まる休止期という周期を2~6年の期間で繰り返す。
男性型脱毛症はTGF―βの働きで、成長期の毛髪が退行期に移るのが早く、髪の毛を維持する期間が数カ月~1年と短くなる。
 
日本皮膚科学会の「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010年版)」は、発症原因の例に遺伝子の個人差や疾患関連遺伝子の存在などを取り上げる。
最も推奨する治療法には内服薬の「フィナステリド」と、外用薬の「ミノキシジル」を挙げる。
内服薬は酵素に働きかけてDHTができるのを抑え、脱毛の原因を取り除く。外用薬は毛の成長に関わる細胞の増殖を促す。
 
ある研究によると、5年間にフィナステリドで治療した約800人の記録では、薬を使っても生え際がかなり後退した段階では治療が難しかった。
 
16年には新たな内服薬が登場した。グラクソ・スミスクラインが発売した「ザガーロ」(一般名デュタステリド)だ。
新薬はDHTの生成に関わる2つの酵素の働きを抑える。
従来のフィナステリドは1つの酵素の作用を妨げた。
治療は保険が利かず薬代だけで新薬は月約1万円、既存薬は同6000~7000円前後になる。
 
新薬は、従来の薬で治すのが難しかった患者の症状を改善できる可能性がある。
ただし、全ての患者を薬で治療するのは難しい。
 
薬に代わる方法として注目を集めるのが、細胞を使った毛髪の再生医療の研究だ。
根本的な治療につながる可能性がある。
 
東京医科大学東邦大学医療センター大橋病院資生堂は7月から、頭皮から採った細胞を髪の薄い部分に注入する臨床研究を始めた。
後頭部の毛が生えた部分の細胞を3カ月かけて100万個に増やし、毛が薄くなった部分に移す。
細胞から出るたんぱく質が頭皮の中に埋もれた毛包の働きをよみがえらせ、太い髪の毛を伸ばす。
研究は男女60人で予定している。
 
東京医科大の坪井良治教授は「薬で治療が難しい人にも効果を示す可能性がある」と期待する。
 
毛を生やす毛包自体を再生させる研究も進む。
理化学研究所は京セラと共同で患者から採った頭皮の細胞から、毛包のもとになる組織を大量に作り移植する治療法を開発する。
2種類の細胞を培養し、毛包に変える。マウスの実験では毛が生えた。
20年までに北里大学で人での研究を目指す。
 
健康な毛包の細胞がない患者のために、iPS細胞から毛包を作る研究を進める慶応大学などのチームも臨床応用を目指している。
 
男性型脱毛症は生まれつきの体質が大きく関わる。
ただ、生活習慣が乱れると症状が進む場合がある。
きちんと睡眠をとり、食生活では亜鉛やビタミンなどの栄養をバランスよく摂取する。
治療と合わせて生活習慣にも気を配ることが大切と専門家は指摘している。

参考
日経新聞・朝刊 2016.8.7



 
イメージ 1

                        長野・蓼科湖湖畔 彫刻公園  2016.7.17 撮影