白血病の薬、やめる選択

白血病の薬、やめる選択

分子標的薬の登場で、画期的な効果が出るようになった慢性骨髄性白血病
健康に近い状態になった人たちで、一生飲み続けるのが原則の薬をやめる臨床研究が進められている。
薬には副作用があり、薬剤費も高額なためだが、中止すれば再発する危険がある。
2年後で約65%が再発せず、再発した人も薬を再開すれば、ほぼ元の状態に戻ったとするデータも出ている。

副作用や薬剤費軽減
慢性骨髄性白血病は、赤血球や白血球などをつくる造血幹細胞が、がんになる病気。
日本には約1万人の患者がいると言われている。
ほとんどの患者は、ある特定の異常な遺伝子が原因となる。治療しないと5年ほどで急激に白血病細胞が増え、命にかかわる。
 
2001年、白血病細胞の増殖を止める分子標的薬「グリベック」が承認された。
飲み薬で、原因遺伝子が高感度の検査法でも検出されないなどの「寛解」状態を維持でき、治療の主流となった。
数千人が使っているとみられる。
基本の1日1回4錠では1日の薬価が約1万円となる。
 
効果のある人は原則、生涯飲み続けなければならない。
検査で原因遺伝子が検出されなくても、体内にはわずかに残っている可能性があるためだ。
 
ところが、フランスの研究グループが10年、グリベックを中止した研究結果を発表した。
原因遺伝子が見つからない状態が2年以上続いている患者が対象で、服薬をやめて2年後の時点で約40%が再発しなかったという。
これを受けて、日本でも複数のグループが同様の臨床研究を始めた。
 
この病気の患者や家族でつくる「いずみの会」(相模原市)代表のTさん(66)は、交流があった秋田大の高橋直人教授(血液内科学)を中心とする研究に参加した。
 
Tさんは03年に診断され、グリベックを約10年飲んできた。
原因遺伝子が見つからない状態を保っている一方、副作用とみられる足のつりや吐き気、腎機能の低下に悩まされていた。「毎日薬を飲むのはつらいし、経済的な負担も不安でした」と振り返る。
 
研究に参加する東京医科歯科大病院でチェックを受け、14年4月から服用をやめた。
原因遺伝子の有無を調べる検査を最初の半年は1カ月ごと、次の半年は2カ月ごと、1年後からは3カ月ごとに受けた。
全身のだるさが消え、腎機能もよくなった。
3年近くたった今も原因遺伝子は見つかっていない。
 
秋田大などの研究にはTさんを含め68人が参加。
中止から1年後で約70%、2年後で約65%が再発していない。
また、1年目で再発した患者は、グリベックを再び飲み始めることなどで、原因遺伝子が検出されないか、ごくわずかな量に抑えられているという。
 
慶応大の同様の研究では、1年で約55%が再発しなかったという。
 
グリベックより効果が高いとされる新薬でも、中止の研究が実施されている。
佐賀大などでは「スプリセル」をやめた半数近くが半年以上再発しなかった。
秋田大などは今年1月から、2種類の新薬それぞれを中止する研究を始めた。
国内外の研究ではこれまで、中止後に急激に悪化した例はほとんどないという。

参考・引用一部改変
朝日新聞 2017.2.22



【ノバルティス】CML治療薬「タシグナ」、患者の半数が治療中止後も3年間寛解を維持
スイスのノバルティスは、BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤「タシグナ」の治療を中止した慢性期フィラデルフィア染色体(Ph)陽性の慢性骨髄性白血病CML)患者を対象に、144週時点の無治療寛解(TFR)率を評価した第II相試験「ENESTop」「ENESTfreedom」で、患者の約半数がTFRを達成したと発表した。
寛解後に治療をやめても3年間寛解が持続する患者が半数に上る優れた結果で、CMLが命にかかわる疾患から治癒を目指せる疾患になりつつあることを示す。
また、TFRを喪失した患者のほぼ全員が治療再開後に分子遺伝子学的大寛解MMR)を再達成した。
今回のデータは、米シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)の第54回年次総会で発表された。

「ENESTop」「ENESTfreedom」は、タシグナで寛解を達成したPh陽性のCML患者の治療のやめどきを評価する試験。
「ENESTop」は、先行品「グリベック」からタシグナに切り替え、3年以上タシグナを投与し、分子遺伝学的寛解(DMR)を達成した18カ国63施設のPh陽性CML患者126人に対し、治療中止を評価した。
48.4%の患者で144週間後にTFRを維持できていた。
また、MMR喪失によりタシグナによる治療を再開した24人中、95.8%にあたる23人が分子遺伝学的効果(MR)を回復した。

参考・引用一部改変
https://www.yakuji.co.jp/entry65702.html
(2018.6.22)




薬でコントロールできる〝慢性疾患〟の時代へ
第3世代の新薬も登場! さらに進化する慢性骨髄性白血病の最新治療
2001年のグリベック登場で、これまでの治療環境が一変した慢性骨髄性白血病CML)。
昨年(2016年)には新たに第3世代の新薬も登場し、治療選択肢はさらに増えている。
慢性骨髄性白血病は、〝がん〟というよりも、薬でコントロールして一生付き合う〝慢性疾患〟の時代になってきたと言える。

21世紀以前、CMLはまだまだ怖い病気だった。
抗がん薬やインターフェロン(IFN)による治療が行われていたが、これらの治療では白血病細胞の数を減らすことはできても、フィラデルフィア染色体を持つ細胞の割合、つまり病気の根本的な性質は変えられなかった。
フィラデルフィア染色体を持つ細胞に次第に遺伝子異常が積み重なり、発症から4~5年経つと患者さんの約半数は急性白血病のような状態(急性転化)になってしまう。
急性転化は、移植など強力な治療をしても再発率が高い致死的な病気だ。
ところが、21世紀の初頭、2001年に我が国でもグリベックが保険承認されて使えるようになり、その様相はガラリと変わりった。

グリベックの登場以前には致死的な病気と考えられていたCMLが、予後良好な穏やかな病気へ変貌し、CMLの予後は劇的に変化した。
しかし、その一方で、最初から薬が効かない治療抵抗性の患者さんや、最初は薬が効いていたのに途中から効かなくなってしまう(獲得抵抗性)患者さんも少数ながらいる。
白血病細胞も賢いので、遺伝子変異を起こして、薬を効かなくさせてしまうのだ。
患者さん全体のうち約20%弱が、グリベックが効きにくい、または副作用のため服薬を続けられないことがわかっている。
この状況を打開すべく開発され、2009年に承認されたのが、第2世代といわれる*タシグナと*スプリセルという分子標的薬だ。
グリベックと同様の作用機序をもつ2剤だが、第2世代とあって、グリベックと比較するとその効果も強力だ。
当初は、グリベックに抵抗性であったり、副作用で服用ができなくなった場合の2次治療として使用されていたが、その後、タシグナ、スプリセルの2剤とも、1次治療からの使用が認められている。
効果が強く、フィラデルフィア染色体を持つ細胞をより早く減らせることから、日本では最初から使うケースが増えている。
第2世代のタシグナ、スプリセルの登場により、十分な治療効果を得られる患者さんは、さらに上乗せされた。
グリベック=一般名イマチニブ *タシグナ=一般名ニロチニブ *スプリセル=一般名ダサチニブ