多発性骨髄腫の新治療法が続々

新薬相次ぎ多発性骨髄腫では死なない時代へ

早期から多剤併用の総力戦で腫瘍細胞の根絶を目指す
2018/3/29
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201803/555381.html
いまだ完治困難な多発性骨髄腫の治療が、相次ぐ新薬の登場で大きく前進している。
背景には病態の解明が進み、個々の患者における腫瘍細胞の多様性が明らかになってきたことがある。
新薬を組み入れた積極的治療で早期から腫瘍細胞を徹底的に減らし再発を抑える。
多発性骨髄腫では死なない時代が現実味を帯びてきた。
昨年11月、日本における多発性骨髄腫の治療薬として、全く新しいタイプの薬剤がまた1つ加わった。
骨髄腫細胞表面に高率に発現しているCD38抗原を標的とする新規モノクローナル抗体医薬のダラツムマブ(商品名ダラザレックス)。
対象は再発または難治性の多発性骨髄腫だ。

ダラツムマブは様々な作用機序により抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。
ダラツムマブがCD38抗原に結合すると、補体がそこに集まって腫瘍細胞を殺傷したり、NK(ナチュラルキラー)細胞あるいは単球やマクロファージによる腫瘍細胞の殺傷作用も高まる。
他にも免疫抑制細胞の数を減少させるなどの免疫調整作用も持つ。

ダラツムマブは既存の薬剤への上乗せ効果が非常に高い。
副作用が少ないので、長く使えるのも大きなメリットだ。

例えば、再発または難治性多発性骨髄腫患者を対象に、標準治療であるレナリドミド+デキサメタゾンの2剤併用療法と、それにダラツムマブを加えた3剤併用療法の効果を比較した試験では、試験開始後2年目における無増悪患者の割合は41%対68%と有意にダラツムマブ併用群が高かった。
同群の患者では、投与期間が1年、2年と長くなるほど完全奏効率が増えていくことも注目された。

多発性骨髄腫は血液悪性腫瘍の1種で、今でも完治は難しい疾患だ。
治療では、40年以上前から抗癌剤のメルファラン(アルケラン)とプレドニゾロンの併用(MP)療法が行われてきたが、患者の生存期間は平均3年だった。
しかし、自家造血幹細胞移植の普及でメルファランの大量投与が可能になり、また2006年のプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ(ベルケイド)の登場を皮切りに、次々と新しいタイプの薬剤が開発され治療の選択肢が広がったことで、生存期間も5年、7年と延びてきている。
今回ダラツムマブが加わり、開発中の薬剤も複数控えている。
今後は生存期間10年以上、さらに治癒を目指せる人も出てくるだろう。

全腫瘍の中に占める割合は少ないものの、血液悪性腫瘍の中では多発性骨髄腫は白血病悪性リンパ腫に並ぶ代表的な疾患に数えられる。
多発性骨髄腫では、腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)が主に骨髄の中で増え続けることにより、「CRAB症状」と呼ばれる特徴的な症状を引き起こす。
2012年の推定罹患率は人口10万対5.4で、最近は年間6500~7000人程度の新規患者がいる。
50歳以降で急速に増え、高齢者に多いのが特徴だ。超高齢社会を迎え今後患者はさらに増えていくとみられている。

多発性骨髄腫の診断の目安となる「CRAB症状」
多発性骨髄腫では、血液細胞の1種である形質細胞が腫瘍化して骨髄腫細胞となり、主に骨髄の中で増え続けるため、赤血球や白血球、血小板など正常な血液細胞の産生が阻害され、貧血、免疫機能低下による感染症、出血傾向など様々な症状が表れる。
また骨髄腫細胞は骨を溶かす破骨細胞を刺激するので、骨がもろくなって骨折や、血液中にカルシウムが溶け出して高カルシウム血症なども生じる。

さらに、形質細胞は本来体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を攻撃して体を守る抗体(免疫グロブリン)をつくる働きを持つが、骨髄腫細胞になると異物を攻撃する能力のない「M蛋白」と呼ばれる抗体を産生し続ける。
過剰なM蛋白は血液を通して体の様々な組織に沈着し、腎障害やアミロイドーシスなどを引き起こす。
こうした高カルシウム血症(hyperCalcemia)、腎障害(Renal insufficiency)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)など多発性骨髄腫に典型的な症状は「CRAB症状」と呼ばれ、診断の目安の1つとなっている。

様々な異常を持つサブクローンの混在が再発・再燃の原因
有効な分子標的薬の登場で慢性骨髄性白血病悪性リンパ腫では寛解状態を長く維持することが可能になった。
これらの疾患に比べて多発性骨髄腫の治療がいまだに難しいのは、その病態の多様性にある。
形質細胞の腫瘍化は、最初は前駆細胞(形質芽球)の異常から始まり、遺伝子異常の蓄積による長期の発がん過程を経て発症する。

厄介なのは腫瘍化した細胞にも新たな遺伝子異常が続発するため、個々の腫瘍細胞は少しずつ違う性質のものへと枝分かれしながら“進化”していくことだ。
このため一人の患者の体内には様々な異常を持つサブクローンが混在し、そのサブクローンごとに薬剤感受性が異なることが、再発・再燃をなかなか抑えられない原因とされる。

多発性骨髄腫でいろいろな新規薬剤の開発が進んでいる背景には、基礎研究の進歩によりその病態が分かってきたことがある。

前述のボルテゾミブに続いて、2008年にはサリドマイド(サレド)が免疫調整薬として多発性骨髄腫の適応で再承認を受け、2010年には同類薬のレナリドミド(レブラミド)も承認された。
さらに最近3年間は新薬ラッシュで、2015年に免疫調整薬のポマリドミド(ポマリスト)とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬のパノビノスタット(ファリーダック)、2016年にプロテアソーム阻害薬のカルフィルゾミブ(カイプロリス)と抗体医薬のエロツズマブ(エムプリシティ)、2017年にプロテアソーム阻害薬のイキサゾミブ(ニンラーロ)と前述のダラツムマブが承認された。
先の3種類と合わせて、現在使用可能な新規薬剤は実に9種類に上る。

例えば慢性骨髄性白血病は、1つの異常な遺伝子に起因するため、治療薬1つでも一騎打ちができた。
しかし、様々なサブクローンが存在する多発性骨髄腫の場合、1対1の戦いでは歯が立たないので、いろいろな薬剤を組み合わせた総力戦が重要になる。
新規薬剤が9種類に増えたことで、再発に備えて治療薬を温存しながら延命を図るという従来の戦略にも変化が起きている。
これまでのように再発したら次の薬という具合に治療を行っていたのではモグラたたきと同じだ。
ダラダラやっていると、手に負えない相手が最後に残って負けてしまう。
先制的に治療を進め、モグラが出ないようフタをすることが必要だ。

多発性骨髄腫の患者では、痛みなどの症状が出た頃には既に1012個もの腫瘍細胞が存在するという。
従って新しい戦略では、プロテアソーム阻害薬と免疫調整薬を中心に強力な薬剤を組み合わせて、最初に徹底的にたたいて腫瘍量を極限まで減らすことを目指す。
その際、重要な指標となるのが、どのくらい深くまで治療が奏効しているのか把握するための「微少残存病変(MRD)」の評価だ。
MRDは骨髄中に存在する異常細胞の割合で、最近はフローサイトメトリーを使って10-5の検出感度まで測れるような方法も出てきた。
MRDが検出できないほど極めて深い完全奏効に到達した人では、長期間無増悪生存する可能性も報告されている。

MRD陰性の獲得を目標に、鈴木氏らのグループは次のような治療の展望を描いている。
自家移植の適応となる人では、まず寛解導入療法としてボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾンの3剤併用療法を行って、「最良部分奏効」以上の状態にする。
そこに自家移植を伴う大量化学療法を実施し、「厳格な完全奏効」を得る。
従来はここまでが初回治療の方針だった。
しかしこれからは、この後再発を待たずすぐにダラツムマブやエロツズマブ、ポマリドミドなどの新規薬剤を組み入れた3剤併用療法を2~3レジメン行い、フローサイトメトリーによるMRD陰性を達成させる。

さらにMRD陰性を獲得した後は、CAR-T細胞療法など最新の免疫賦活作用のある治療を用いて、患者自身の免疫の力でその状態を維持していくという戦略が考えられる。
なお、移植非適応の患者では大量化学療法が行えないため、移植適応患者ほどの高い抗腫瘍効果は得にくい。
MRD陰性の達成は現時点ではまだ厳しいと考えられるが、移植適応の患者と同様に複数の新規薬剤を併用した積極的な治療で予後の改善が期待できる。 

「くすぶり型」から治療を始めて「発病予防」という戦略も
一方、多発性骨髄腫は、骨病変や腎障害などの症状が出る前に、健診や人間ドックの血液検査や尿検査で異常を指摘されて見つかることも少なくない。
現在の治療方針では、基本的には症状のある人が「多発性骨髄腫(症候性骨髄腫)」と診断され、治療の対象となっているが、最近はもう少し前のいわゆる「くすぶり型」の段階から治療を始めて症状の発現を抑えてしまうという考え方も出てきているす。
 
「くすぶり型多発性骨髄腫(無症候性骨髄腫)」とは、骨髄腫細胞やM蛋白が一定量以上増加しているが、症状はほとんどなく、臓器障害も伴わないタイプを指す)。
くすぶり型(無症候性)から症候性に移行する人は5年で50%くらいに上る。

従来は、早い段階から治療を始めても生存率に差はなかった。
しかし新規薬剤が登場してからは、早くから治療を始めた方が予後は良いという結果も出てきている。
既に海外では、CRAB症状がなくても骨髄中に形質細胞が60%以上を占めるなどの条件を満たすハイリスク群に対して治療が推奨されるようになっているという。

多発性骨髄腫では、個々の患者で腫瘍細胞の状況は異なるため、薬剤の組み合わせは患者の状態やリスク、日常生活の質などを考慮して患者ごとに決めていくことになる。
新規薬剤の使用に伴う医療コストの増大などの課題もあるが、今は再発・難治例のみの適応となっている新規薬剤が今後初発の人にも使えるようになれば、治療成績はさらに向上するだろう。
将来はMRD陰性を指標に患者を治せる時代になり、さらに発病予防により多発性骨髄腫に進行する人がいなくなるのが理想だ。
 

多発性骨髄腫患者の移植後の維持療法でのイキサゾミブはプラセボに比べて病状進行または死亡リスクを28%減少(ドクター用)

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/201812/558910.html
2018/12/4
武田薬品工業は12月3日、多発性骨髄腫患者の自家造血幹細胞移植後の維持療法として経口プロテアソーム阻害薬イキサゾミブを投与するとプラセボを投与した場合に比べて有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することを示したフェーズ3試験TOURMALINE-MM3の結果が、米国血液学会(ASH2018)で公表されたと発表した。
主要評価項目である独立評価委員会による判定でのPFSに関するハザード比は0.72(95%信頼区間:0.582-0.890)、p=0.002だった。

TOURMALINE-MM3試験は、656名の患者を対象とした、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験
導入療法とその後の大量化学療法、自家造血幹細胞移植に奏効を示した多発性骨髄腫患者を、イキサゾミブを投与する群とプラセボを投与する群に割り付けて行われた。

PFSの中央値はイキサゾミブ群が26.5カ月、プラセボ群が21.3カ月だった。
PFSのサブグループ解析でも、ISS III(ハザード比0.661)、プロテアソーム阻害薬投与歴あり(ハザード比0.750)、プロテアソーム阻害薬投与歴なし(ハザード比0.497)、細胞遺伝学的高リスク(ハザード比0.625)など、イキサゾミブ群が優位なサブグループが広く認められた。

微小残存病変(MRD)陽性陰性への転換は、イキサゾミブ群が12%、プラセボ群が7%だった。また、イキサゾミブ群は、プラセボ群と比べて高い割合で奏効の改善が認められた。
相対リスクが1.41(95%信頼区間:1.10-1.80)、p=0.004だった。

観察期間中央値が31カ月で、PFS2、全生存期間(OS)は、両群ともに中央値に到達していない。


多発性骨髄腫治療薬ポマリドミドの3剤併用療法の用法・用量追加を申請 (ドクター用)

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/news/201809/557994.html
2018/9/27
セルジーンは9月26日、多発性骨髄腫治療薬であるポマリドミドの用法・用量について、ボルテゾミブとデキサメタゾンとの3剤併用療法を追加する製造販売承認事項一部変更承認申請を行ったと発表した。

今回の申請は、6月にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2018)で発表された、フェーズ3試験OPTIMISMMの結果に基づくもの。OPTIMISMM試験では、レナリドミド治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫患者に対し、ポマリドミド、ボルテゾミブ、低用量デキサメタゾン併用療法(PVd療法)が、ボルテゾミブ、低用量デキサメタゾン併用療法(Vd療法)よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長できることが示されていた。
OPTIMISMM試験には日本人患者も参加していた。

ポマリドミドはデキサメタゾンと併用する場合の用法・用量しか認められていないが、今回の申請でボルテゾミブ、デキサメタゾンと併用する場合の用法・用量の追加を求めている。


「血液のがん」に新薬続々 組み合わせ投与

日経新聞・朝刊 2019.1.14)
https://webreprint.nikkei.co.jp/r/LinkView.aspx?c=D8D00438DF2E4B02875D1E6903E465BF