骨粗鬆症の薬と顎骨壊死

骨折防ぐ薬であごの骨壊死の副作用 お口の中を清潔に

骨を丈夫にして骨折を防ぐ薬によって、あごの骨(顎骨)が壊死する副作用が確認されている。
頻度はまれだが、国内に1千万人以上と推計される骨粗鬆症や、がんが骨転移した患者に使うため、予防法に注目が集まっている。
細菌感染が関係するとみられるため口の中を清潔にすることや虫歯や歯周病の治療が大切だ。

骨粗鬆症の治療中 奥歯周辺に痛み
Aさん(女性、76歳)は昨年6月、右下の奥歯周辺に激しい痛みを感じ、口を開けることもできなくなった。かかりつけの歯科医に行くと、「すぐに口腔外科へ」と言われた。
ある大学病院を受診すると、X線検査で下あごの骨の壊死がわかった。
うみも出始めていた。
4日後の造影CT検査で、「薬剤関連顎骨壊死」と診断された。
 
女性は2013年に自転車で転び、右ひじを骨折した時に「骨粗鬆症」と診断され、骨吸収抑制薬による治療を始めた。
骨には、既存の骨を壊して吸収する細胞と新しい骨をつくる細胞がある。
骨粗鬆症になるとこの二つの細胞の働きのバランスが崩れて骨がもろくなる。
女性には、骨の吸収の働きを抑えて骨を丈夫にする薬が処方された。
 
壊死の治療のため女性は約3カ月間、1日に2回抗菌薬をのみ、うみが出ている部分を洗浄する通院治療を受けた。
治療開始から4カ月後に顎骨内の壊死部分が正常な骨から分離したことがX線検査で確認され、昨年12月に壊死部分を除く手術を受けた。
この春、骨の露出部分が粘膜で覆われるまでに回復した。
 
骨吸収抑制薬の影響が顎骨だけに現れる理由ははっきりとしないが、他の骨に比べて感染しやすい環境にあるからと考えられている。
受診した大学の教授(口腔顎顔面外科)は「薬で骨の密度は増すが、細胞成分が少なくなるので感染に弱くなる。口内には細菌が多いので、歯周病や不十分な虫歯治療、抜歯などがきっかけとなり顎骨に感染し、進行すれば骨の壊死に至る」と言う。
 
一般的な治療法は、3~5カ月間、洗浄や抗菌薬を続けて感染が治るか、壊死部分が分離するのを待つ。
骨の露出が続けば、腎臓や肝臓などの状態を確かめたうえで壊死部分の切除手術をする場合もある。

医師と歯科医師、連携を
海外の論文には、骨吸収抑制薬の一種「ビスホスホネート(BP)」ののみ薬による薬剤関連顎骨壊死の発生頻度について複数のデータがある。
患者10万人当たりで年間69人と多いものから1人まで。
日本口腔外科学会が2011~13年に約500施設を対象にした調査(回答率70%)によると、4797人がBPによる顎骨壊死と診断されていた。
元の病気は、がんの骨転移が47%、骨粗鬆症45%、多発性骨髄腫6%だった。
 
予防は、骨吸収抑制薬をのむ前と、のみ始めた後で対応が異なる。
 
代謝骨粗鬆症、口腔外科など6学会が昨年まとめた見解は、のむ前であれば、主治医が患者に歯科受診を勧めて口の中の衛生状態を改善し、投薬開始2週間前までに歯科治療を終えることが望ましいとする。
 
のみ始めた後は、骨折を防ぐ効果と壊死が起きる危険性を比べて、骨吸収抑制薬の使用を一時やめるかの判断が重要になる。
だがどんな状態で薬をストップすべきかのデータはそろっていない。
毎食後の歯みがきで口の中を清潔に保つことや、抜歯をする前から抗菌薬を使うことなどが対応例としてあげられている。
 
副作用を防ぐには医師と歯科医師の協力が重要だ。
 
広島県呉市では先月、医師と歯科医師が互いに患者の治療予定や診療状況などを連絡し合うための「連携用紙」をつくった。
医師は歯科医師に、骨吸収抑制薬を使う予定などを伝え、口腔ケアや歯科治療を依頼。
歯科医師は、治療を受けているのは3割弱とされる骨粗鬆症の早期発見のため、歯や顎骨のX線写真で疑いがあれば診察を依頼する。
 
呉市医師会の会長は「医師や歯科医師に周知し、市民にも情報を発信していきたい」と言う。
 
日本骨粗鬆症学会理事長は「医師と歯科医師の協力が十分でないために患者さんが不利益を受けないよう、呉のような取り組みを全国に広げていきたい」と話している。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.5.10