骨粗鬆症

高齢者での特殊事情

骨粗鬆症とは、骨量(カルシウムなど骨全体に含まれるミネラルの量)の低下と、骨組織の微小構造の破綻(はたん)によって、骨の脆弱性(傷つきやすいこと)が亢進し、骨折の危険率が増大した病気です。
 
骨折は骨粗鬆症の合併症で、骨折を予防するために骨量の維持ならびに増加を図ることが大切です。
ただし、高齢者における骨折予防のためには、筋力の増強、関節可動域の確保といった運動能力の維持・増進や、転倒防止を念頭においた環境の整備も重要です。
また、高齢者の場合は、すでに骨折を起こしていることも多く、その治療とケアも重要な課題です。


骨粗鬆症のタイプ
骨粗鬆症は、大別して原発骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症とに分けられます。
 
原発骨粗鬆症は、明らかな原因となる病気がなくて起こるもので、これは退行期骨粗鬆症と若年性骨粗鬆症に分けられます。
そのうち圧倒的に多いのは、加齢に伴う骨量減少を背景とする前者の退行期骨粗鬆症です。
退行期骨粗鬆症は、さらに閉経後骨粗鬆症と老人性骨粗鬆症とに分けられます。
 
一方、続発性骨粗鬆症は、さまざまな病気や薬物などが原因となって起こるものです。
主な原因としては、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症など)、関節リウマチ、糖尿病、胃切除、ステロイド薬の服用をはじめとして多くのものが知られています。


●退行期骨粗鬆症の原因
骨は、常に新陳代謝を繰り返しています。
古くもろくなった部分は壊されて(骨吸収)、その部分が新しく修復されています(骨形成)。
 
骨量、骨密度(骨の単位容積内のミネラルの量)は、思春期から20歳くらいまでに最大値に達し、40歳くらいまではその値が保たれ、その後減少することが知られています。
 
退行期骨粗鬆症のメカニズムは、次のように考えられています。
 
骨量は、閉経後の数年間に最も減少速度が高まります。
女性ホルモン(エストロゲン)には骨形成を促進し骨吸収を抑制する作用がありますが、閉経によって女性ホルモンが欠乏すると、骨の代謝回転が亢進し(高回転型)、骨吸収が骨形成を上回って急速に骨量が減少します。
これが閉経後骨粗鬆症です。
 
このような閉経による変化は、60~65歳以降には一般的には落ち着き、次第に老化に伴って骨の代謝回転が低下していきます(低回転型)。
すると今度は、骨形成の低下が骨吸収の低下を上回り、ゆっくりと骨量が減少していきます。
これが老人性骨粗鬆症で、この老化による骨粗鬆症は、女性だけでなく男性にも起こります。
 
そのほか、高齢者の場合は、カルシウム摂取量や腸管からの吸収低下、ならびに体内ビタミンD量の低下などが、二次性の副甲状腺機能亢進状態をもたらし、その結果、骨量の減少がもたらされることなどが考えられています。


#検査と診断
骨粗鬆症の診断は、骨量の評価と鑑別診断の2つの柱からなります。
骨量の評価は、骨塩定量装置またはX線撮影で行いますが、前者の結果を優先します。
しかし高齢者の場合は、脊椎の圧迫骨折をすでに起こしている可能性が高いことや、変形性脊椎症などほかの病気を併発していることが多いため、X線撮影も必要です。
 
現在、日本骨代謝学会による診断基準2000年版が利用されています。
現時点では、年齢別の診断基準は設定されていませんが、高齢者の骨粗鬆症の診断には骨量の低下以外の骨折危険因子も考慮して行います。

#治療とケアのポイント
骨粗鬆症の治療は、食事療法、運動療法薬物療法からなります。
加えて高齢者の骨折予防のためには、前述したように骨自体の強度のみならず、運動能力の維持・増進や転倒防止を念頭においた環境の整備も必要になります。
 
近年、骨代謝マーカー(骨形成や骨吸収の状態を反映する物質)の検査が実用化されています。
この検査をすると、骨代謝状態の把握、治療薬の選択、治療効果の評価に役立ちます。
 
現在、日本では8種類の治療薬が使用可能です。治療薬の選択にあたっては、個人ごとの骨代謝の多様性を考え、加えてそれぞれの薬の特徴をいかした処方を行います。
原則的には単剤を使用し、効果があって有害な事象がないかぎり、できるだけ長く同じ薬を使用します。
 
日本で最も利用されている治療薬は、活性型ビタミンD3製剤です。
これは、ビスホスフォネート製剤や女性ホルモン、選択的エストロゲン受容体作動薬(SERM)に比較すると骨量増加作用は弱いのですが、脊椎圧迫骨折の発生を有意に抑制するとの報告があります。
相対的なビタミンD不足の傾向にある高齢者に有用性が認められています。
 
また、ビタミンK2製剤は、新しい機序(仕組み)をもつ薬として期待され、現在、骨折予防効果についての大規模な臨床研究が行われています。
ただし、この薬はワルファリン服用中の患者さん(肺塞栓症、不安定狭心症など)には使えません。
 
骨粗鬆症の症状のひとつとして腰背痛があります。
腰背痛はさまざまな病気によって現れるため、鑑別診断が重要です。
骨粗鬆症による腰背痛の治療には、安静や湿布による局所療法のほかに、カルシトニン製剤による治療(筋肉注射)を行います。
 
骨粗鬆症に対する治療効果は、DXA法による骨量測定、胸腰椎のX線撮影、骨代謝マーカーの測定によって評価します。
6カ月~1年くらいでそれまでの治療を見直し、継続、追加、または変更をしていきます。
 
また、転倒しても大腿骨頸部骨折に結びつかないように、大転子部(大腿骨の外側の出っ張り部分)を硬質ポリウレタンなどでおおう「ヒッププロテクター」という装具が市販されています。
これは現在のところ保険の適用外で、使い勝手を向上させる工夫など未解決な課題もありますが、活用を検討したい装具のひとつです。
(執筆者: 東京都老人医療センター内分泌科 細井 孝之部長) 

http://health.goo.ne.jp/medical/search/10290100.html





<番外編 その1>
#睡眠不足は万病のもと
もっとも健康的な1日の睡眠時間は7~8時間というのは世界的にも、ほぼ一致した見解だ。
睡眠時間が短いと心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険性を高める。
また肥満、糖尿病、高血圧などの発症リスクも高め、老化や生活習慣病を引き起こす。

この原因として交換神経の活性亢進、血圧の上昇、代謝異常、動脈硬化の進展などが考えられる。
睡眠不足は、まさにメタボリック症候群をはじめとした、様々な病気を引き起こす重要な原因の一つだ。

不眠症の人では昼間の血圧は正常でも、夜間の血圧が高い。
交感神経の活性亢進によるものだ。

この為、血圧が正常と思ってる人が多く注意が必要だ。

日本人の大規模な研究で4時間以下の短い睡眠の女性では、心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡が約2倍になると報告されている。

たかが睡眠と思っているかもしれないが、まさに睡眠不足は万病のもと。
肥満気味で高血圧、動脈硬化、糖尿病などの持病がある人は特に睡眠不足にならないように心がけるべきなのだ。                    (執筆者: 京都府立医科大学大学院 吉川敏一教授) 
出典 日経新聞・夕刊 2010.8.20
版権 日経新聞


<番外編 その2>
#子宮頸がん予防に150億円 厚労省、予算特別枠で要求へ
厚生労働省平成23年度政府予算で、経済成長や国民生活の安定などのため設けられる1兆円超の「特別枠」に、子宮頸がんを予防するワクチン接種助成事業150億円の要求を盛り込むことが16日、分かった。
 
子宮頸がんは性交渉によるヒトパピローマウイルスの感染が主原因とされ、10代前半のワクチン接種で予防が期待できる。
費用は4万~5万円で、厚労省は国、都道府県、市町村で負担し合って助成する仕組みを想定している。
 
特別枠にはこのほか、がん対策で、働く世代に大腸がん検診を受けてもらい、受診率を向上させる事業にも約50億円を充てる。
 
特別枠をめぐっては、各省庁の要求を公開の場で議論する「政策コンテスト」を実施し、予算配分を決めることになっている。


<私的コメント>
この「特別枠」は「元気な日本復活特別枠」という名前がついています。
名前からして「くさい」のですが、税収が大幅に減っている現在、「ばらまき」ではないでしょうか。
インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンや肺炎球菌ワクチンなど、ほかにもワクチンがある中、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに対してのみ予防事業の予算化を要求したことについて、首をかしげる医療関係者は少なくありません。
このワクチンについては諸外国で副作用が取り沙汰されています。
今後起こりうる副作用が出た場合の国家や地方自治体の賠償問題もきちんと考えているのでしょうか。




<きょうの一曲> Beethoven, 7th Symphony, 2nd Movement
Beethoven, 7th Symphony, 2nd Movement (David Zinman, Tonhalle-Orchestra, Zurich)







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があります。