多剤耐性アシネトバクター菌

菌検出は昨夏、多剤耐性と疑わず 帝京大で感染拡大

複数の抗生剤の効かない細菌アシネトバクターによる院内感染の疑いで、わずか1年で少なくとも患者9人が死亡した。
帝京大学病院は5月に異変に気づいて内部調査を始めながら、9月まで外部に報告、公表を一切しなかった。
3日の会見でその理由は明確にされず、どこからどのように感染が広がったのかもよくわからない。
対応が遅れる間に被害はじわじわ広がった。

階を超え感染、経路は不明
感染は15~17階にある内科系の西病棟を中心に広がった。
感染者46人のうち25人が集中する。
16階の血液・総合内科と17階の腎臓・総合内科の2病棟で特に多かった。

アシネトバクターは人工呼吸器や点滴の管を介して感染する可能性がある。
尿や痰(たん)、膿(うみ)などにも含まれ、トイレが感染原因になることもある。
昨年の福岡大病院の例では、人工呼吸器の関連器具の消毒が不十分で菌が残ったのが主な感染源だったほか、血管に入れる細い管や包帯を載せた台車、ベッドなどからも菌が検出された。

帝京大病院の説明では、医師は複数の病棟の患者を受け持つ。
こうした医療従事者が感染を媒介した可能性がある。
手術の過程で感染した患者がいることや、人工呼吸器周辺から菌が検出されたことも明かした。

そもそも菌がどこから院内に持ち込まれたのかもわかっていない。


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出典 asahi.com 2010.9.4
版権 朝日新聞社


<私的コメント>
多剤耐性アシネトバクターはMRABともいいます。
他のニュースソースでは患者46人が感染し、27人が死亡しており、この死亡例のうち9人に関してはMRAB感染が直接の死因となった可能性がある、とのこと。
これをどのように解釈すればいいのでしょうか。
27人のうちの残り18人もMRABが「間接的な死因」になっていたとも解釈出来ます。
6人は関連が不明。
12人は原疾患が死亡原因で、感染との因果関係はないと大学側は公表しています。
(現在、院内の感染者は9人)




院内感染―衛生対策の基本を大切に

東京都板橋区帝京大付属病院で、薬の効きにくいアシネトバクター菌による大規模な院内感染が起きた。

昨年8月以来、これまでに46人が感染し、少なくとも9人はそれによって亡くなった可能性がある。

病院が院内感染を疑い、過去にさかのぼる調査を始めたのは今年5月中旬になってからだ。
保健所への報告も、今月初めだった。

死者が出ているという情報が病院内で十分に共有されていなかったことも明らかになっている。
初動が遅れたばかりか、あまりに危機感が欠けた対応だったといわざるを得ない。
それが被害を広げた可能性も高い。

この病院は高度な医療を行う特定機能病院だ。
8月に厚生労働省と都の定期検査を受けた。
その際、感染防止の態勢が弱いという指摘を受けながら、院内感染について報告しなかった。
首をかしげたくなる対応だ。

徹底的に態勢を見直すべきだ。

全国の病院でも、感染防止の態勢を急いで再点検してほしい。

こうした薬の効きにくい細菌は世界的にじわじわ広がっており、日本でも感染例が相次いでいる。

2008年秋から翌年の1月にかけて福岡市の福岡大病院で、今回と同じ細菌に26人が感染して4人が死亡する例があり、厚労省は警戒を呼びかけた。
今年2月、愛知県の病院でも起きた。

細菌との戦いは予断を許さない。
最初の抗生物質ペニシリンの登場以来、すり抜けて耐性を獲得した細菌と、強力な抗生物質の開発競争が続いてきたが、薬の開発がなかなか追いつきにくくなってきたのが現状だ。

主要な抗生物質のどれもが効かない多剤耐性と呼ばれるタイプや、効く薬が全くないスーパー耐性菌と呼ばれるものまで出てきた。

アシネトバクター菌は土の中などにいるありふれた細菌で、健康な人にはまず病気を起こさないが、がんなどで免疫力が弱った人に感染すると、肺炎や敗血症などの重い症状を起こすことがある。
普通なら抗生物質が効くが、今回のように多剤耐性になると、ほとんどの薬が効かなくなる。

大切なのは、すばやい対応だ。
千葉県の船橋市立医療センターでは昨年、このスーパー耐性菌が見つかった。
ただちに院内感染対策チームを招集して病院中に警報を発した。
患者を個室に移して病院全体の衛生対策を徹底させた。
それが功を奏した。

人工呼吸器などの医療機器の管理やせっけんでの手洗いなど、基本的な衛生対策の徹底が大切なことは、過去の多くの事例が教えている。

感染がわかったら、院内で、そして地域で、情報を共有して取り組む。
そんな基本も再確認しておきたい。

出典 朝日新聞・朝刊 2010.9.6(社説)
版権 朝日新聞社


愛知でも多剤耐性菌に24人感染 藤田保健衛生大病院

多剤耐性菌アシネトバクターによる感染の全国的な広がりが懸念されるなか、愛知県豊明市の藤田保健衛生大病院でも今年2月以降、院内感染が発生し、計24人から菌が検出されていたことが分かった。
6人が亡くなり、うち1人については感染症が直接の死因ではないが、耐性菌の関与はゼロではないとされた。
病院によると、初めて菌を検出したのは2月10日。その後も5例が相次ぎ、16日に愛知県瀬戸保健所に報告した。

出典 asahi.com 2010.9.4(一部略)
版権 朝日新聞社

<私的コメント>
多剤耐性菌をまず発生させないシステム作りが重要なのは勿論のことですが、この大学病院は速やかに保健所に報告しています。
しかし、よく考えてみると愛知県瀬戸保健所が今頃になって公表したことになります。
報道の「つっこみどころ」はここだと思うんですが。



主要抗生剤効かない細菌、米帰りの男性感染 回復し退院

千葉県船橋市の市立医療センターに入院した20歳代の男性から、主要な抗生剤約30種が効かないアシネトバクター菌が見つかった。
厚生労働省によると、国内でこの多剤耐性菌が見つかったのは初めて。
院内感染はないという。
海外での院内感染が疑われており、研究者は海外からの上陸に警戒するよう、医療機関などに呼びかけている。
出典 asahi.com 2010.4.8
版権 朝日新聞社

<私的コメント>
「国内でこの多剤耐性菌が見つかったのは初めて」「院内感染はない」。
時系列的には、このニュースの時点で東京都板橋区で発生していたことになります。




以下は、今回の報道の半月前に新聞に載った、多剤耐性の「病原性大腸菌」のニュースです。
帝京大学薬害エイズで名を馳せました)の関係者をどのような気持ちでこの報道を見ていたのでしょうか。
もちろん心中穏やかではなかった筈です。

抗生物質効きにくい病原性大腸菌 米で確認、日本でも

抗生物質で治療しにくい新型の多剤耐性の病原性大腸菌が米国で広がっていることが、ミネソタ州の退役軍人医療センターなどの研究でわかった。
ST131と呼ばれる型で、従来の耐性大腸菌に比べて病原性が比較的高く、感染すると重症になりやすい。日本でも見つかり、西日本などで拡大中という。

感染症学会の専門誌に今月、掲載された論文によると、2007年、米国で抗生物質が効かない大腸菌の流行があった。
研究チームが入院患者127人から採取した大腸菌を調べたところ、うち54人がST131だった。

耐性がある大腸菌は病原性が低いものが多く、病原性の高い大腸菌抗生物質による治療が可能だったが、ST131は病原性が比較的高いうえに耐性もある。

カルバペネムなど切り札となる薬への耐性はみられていないが、チームのジェームズ・ジョンソン博士は「この菌がもう一つ耐性遺伝子を獲得すると、ほとんど治療不能。大変、憂慮される」と警告している。

ST131は米国以外の数カ国で見つかっている。
九州大病院の内田勇二郎助教によると、耐性がやや異なるST131が西日本を中心に拡大中という。

大腸菌の多くは無害だが、まれに重い感染症を引き起こすものもある。
ST131は、激しい下痢を引き起こしたりするO(オー)157とは異なる型だが、食中毒を起こすこともある。
必要以上に恐れることはないが、尿管感染が悪化した敗血症などで患者が死亡する場合もある。

抗生物質の乱用などによる耐性菌の発生は世界的な問題になっており、世界保健機関(WHO)は来年4月の世界保健デーのテーマを「薬剤耐性」にする予定。
また最近、インド由来とみられ、抗生物質がほとんど効かない耐性遺伝子NDM1を持つ菌も見つかっている。

出典 asahi.com 2010.8.19
版権 朝日新聞社

<私的コメント>
インド由来の、このは耐性遺伝子NDM1安価な医療などを求めて世界を旅する「メディカルツーリズム」が拡大を助けたとみられています。
幅広い抗菌効果を示す抗生物質カルバペネムに対する耐性遺伝子「NDM1」を持つ細菌の試料をインド、パキスタンから計143例、英国で37例見つかっています。
英国の患者の多くは、美容外科手術などを受けるために、医療費が安いインドやパキスタンに旅行していたとのこと。
インドでは処方箋なしでカルバペネムが大量に使われおり、これが耐性遺伝子発生の温床になっているというです。
思い浮かべるのは、隣国の韓国。
美容外科手術に渡航する日本人もいると聞きます。
余計なことですが、大丈夫でしょうか。


<耐性菌 関連サイト>
家畜への抗生物質投与「制限を」 米当局、耐性菌を懸念
米食品医薬品局(FDA)は2010年6月28日、えさや飲み水に混ぜて豚や鶏などの家畜へ常時与える抗生物質の量を減らすよう、畜産業界に求める指針案を発表した。
抗生物質を家畜に与えると、病気の治療や予防だけでなく、成長促進の効果があり、米国では感染の有無とは無関係に広く使われている。
だが、薬剤耐性菌発生の温床となり、人間の感染症治療が難しくなる恐れがある。
日本では、食品安全委員会が2004年から、家畜に使われる抗生物質の危険度評価をしているが、現在も常時投与は広く行われている。
欧州連合EU)は成長促進を目的とした常時投与を2006年から全面禁止している。

出典 asahi.com 2010.6.30(一部略)
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<きょうの一曲>
平原綾香「カンパニュラの恋」
http://www.youtube.com/watch?v=NeouOwD-OFY&feature=related


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前田利昌 「ガラスの静物」12F
http://www.norigallery.com/past_2009/past_