スーパー耐性菌 NDM1

昨日は、多剤耐性アシネトバクター菌についてとりあげました。


昨日も少し取り上げましたが、「NDM1(ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1)」という酵素の遺伝子を持つ新型の耐性菌のニュースが大きくとりあげられました。



新耐性菌:国内で初確認…NDM1保有 独協医大新耐性菌:国内で初確認…NDM1保有 独協医大

栃木県壬生町の独協医大病院は6日、ほとんどの抗生物質が効かない新しい耐性菌が入院患者から検出されたと発表した。
インドや欧州で感染が広がっている「NDM1」と呼ばれる遺伝子を持つ大腸菌で、国内初の感染確認となる。患者は退院して現在は保菌しておらず、他の患者への感染もないという。
【泉谷由梨子、山下俊輔】

#50代男性、昨年感染
感染者はインド渡航歴がある50代の日本人男性で、帰国後の昨年4月、別の病気で入院した。
5月中旬に約38度の発熱があり、血液検査で抗生物質が効かない多剤耐性大腸菌が検出された。

同病院は今年8月、厚生労働省のNDM1への注意喚起や、英医学誌の論文から、大腸菌がNDM1遺伝子を持つ可能性があると推測し、保存菌の遺伝子を検査した。
その結果、8月27日にPCR法で陽性が確認され、30日に遺伝子配列がNDM1遺伝子と100%一致した。
検査結果は、27日と30日に栃木県県南健康福祉センターに連絡し、県は30日、国立感染症研究所に報告したという。

男性は個室に入院し、医師らも耐性菌が検出されてから手袋やマスクなどで院内感染対策を強化した。
男性は多剤耐性大腸菌検出は1回だけで、昨年10月の退院時には自然治癒していたという。

同病院の菱沼昭准教授によると、男性はインドで医療機関を受診しており、同国で感染した可能性が高いという。
菱沼准教授は「毒性が高い菌ではない。健康な方なら菌を持っていても症状は出ないと思う」と話し、北島敏光病院長は「症例は初のケースだが感染拡大を防止できた」としている。
出典 毎日新聞 jp 2010.9.6
版権 毎日新聞社



#【用語解説】NDM1
大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌がこの遺伝子を持つと、多くの抗菌薬が効かなくなる。抗菌薬を効かなくする酵素を作る遺伝子はプラスミドと呼ばれる環状遺伝子にあり、ほかの腸内細菌に簡単にうつりやすいのが特徴で、同じ腸内細菌で病原性の高いサルモネラ赤痢菌などに広がる懸念がある。市中に広がると、抵抗力が落ちていない人でも尿路感染症や肺炎などが起きる危険性がある。
出典 産経ニュース 2010.9.6
版権 産経新聞



新耐性菌の広がり調査へ 厚労省、NDM1の初の検出受け

「NDM1」という酵素をつくる遺伝子を持ち、多くの抗生物質に耐性がある新たな菌について、厚生労働省は7日までに、国内での広がり具合を調査する方針を固めた。
独協医大病院での初の検出を受けたもので、感染症の専門家と時期や調査方法を詰め、早急に実施したいとしている。

疑いのある患者の検体を国立感染症研究所で高精度に解析。
第2、第3の確認例が出た場合、独協医大での検出例との関連なども明らかにしていく考えだ。

関係者によると、医療機関では、感染症の患者から採取したたんなどの検体で抗生物質が効くかどうか試験をしている。
この試験で複数の抗生物質に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などが見つかった場合、同研究所に送ってもらい、NDM1をつくる遺伝子を持つかどうかを調べる方法が有力という。
解析には1週間程度かかる見通し。

大学病院など大規模な医療機関では自前でも解析できるが、そうした場合でも検体を送ってもらえるよう要請する。

厚労省などによると、これまで国内で確認されたのは、独協医大病院の男性だけ。
欧州などの患者と同様にインドへの渡航歴があった。ただ、ほとんどの人は感染しても無症状という。

出典 共同通信 2010.9.7
版権 共同通信社




以下は日経新聞の記事からです。

スーパー耐性菌 ”院外感染”も

■耐性菌はこれまで病院内での感染が問題になっていたが、新型は健康な人も感染する恐れがあるという。
こうした菌が海外から持ち込まれる恐れもあり、専門家は警戒を強めている。
■インドでは膀胱炎や肺炎などの患者の約1割から見つかったほか、英国ではインドなどの旅行経験者らを中心に2009年までに32人が感染した。
旅行先のパキスタンで治療を受けたベルギー人が帰国後に死亡した例もある。
■NDM1という酵素が作る蛋白質が抗菌剤を分解して効果をなくす。
■従来の耐性菌は緑膿菌黄色ブドウ球菌など比較的病気を起こしにくく、主な感染者は体力や免疫力が落ちた入院患者だった。
しかし、今回見つかった耐性菌は、健康な人でも膀胱炎や肺炎を引き起こす膀胱炎や肺炎桿菌が変化したタイプ。
したがって、院内感染だけでなく、院外の多くの人たちにも広がる可能性がある。
免疫力が低下している入院患者は細菌が全身に広がる敗血症で死亡する恐れもある。
■新型の耐性菌が生まれた理由は現段階では不明だが、大腸菌や肺炎桿菌が病原性のない細菌からNDM1の遺伝子を受け取ったとする説が有力。
「プラスミド」という小さな環状の器に遺伝子があり、細菌同士がくっついたときに遺伝子が持ち込まれたとみられる。
■研究者が最も警戒するのは、大腸菌などに比べて病気を起こしやすい細菌がNDM1の遺伝子を獲得することだ。
食中毒を引き起こすサルモネラ菌赤痢の原因となる赤痢菌は、大腸菌などから遺伝子をもらいやすい。
もし薬剤耐性遺伝子を受け取ったサルモネラ菌などが広まると、死亡する感染者が増える恐れがある。
■薬剤耐性菌の対策には、新たな抗菌薬の開発が必要だが、ここ10年は開発はほとんど進んでいない。
ただ、1950年代に発売されたものの今は使えない「コリスチン」という古い抗菌剤が、今回の新型耐性菌に効果があるとの研究もある。
日本化学療法学会では、この抗菌剤が国内で早期に承認されるように求めている。

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出典 日経新聞・朝刊 2010.9.5
版権 日経新聞

<私的コメント>
最初の抗菌剤はペニシリンで、1940年代に登場しました。
その後は、新しい抗菌剤が出るたびに、耐性菌が登場すつといったイタチごっこが繰り返されて来ました。
抗菌剤を使う以上、耐性菌の出現は避けられません。
使用をコントロールしたり耐性菌の出現を監視するなどの対策をしていく必要があります。
しかし、世界的にこの問題に取り組まないと今回のようなことが繰り返されることになってしまいます。



<NDM1 関連サイト>
NDM1
http://huhcanitbetrue.blogspot.com/2010/08/ndm1.html




<きょうの一曲> 黒い鷲
Barbara L'Aigle noir
l 'aigle noir barbara
http://www.youtube.com/watch?v=t4LiSjm67DE&feature=related




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高梨 潔 たそがれの街 F20
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