耐性菌、対策バラバラ

厚生労働省と東京都は6日、多剤耐性の細菌アシネトバクターによる感染で死者9人が出た帝京大学病院(東京都)に異例の立ち入り検査をした。
国内での広がりが懸念されるなか、栃木県の独協医科大病院では別の新タイプの耐性菌が国内で初めて検出されていたことも発覚。
新たな耐性菌の相次ぐ出現に医療機関の対応が問われている。

帝京大、報告まで7カ月 専従職員数も病院で差

「きちんと、(院内のシステムが)機能しているのかどうか検証が必要だ」
長妻昭厚生労働相は6日、立ち入り検査を実施する考えを明らかにした。

帝京大病院は高度な治療ができる厚労相が承認する「特定機能病院」。
問題が生じた場合、原因分析などのため、厚労省は立ち入り検査ができる。

過去の検査では、2002年に東京女子医科大病院で心臓手術を受けた女児が医師の過失で亡くなった事件を受けた例がある。
半年後に特定機能病院の承認を取り消した。

東京都によると、病院側はこの日の立ち入り検査の中で、院内感染担当の職員増加や病院全体での情報共有といった再発防止対策の方向性を文書で明示。
感染ルートの解明について、外部の専門家からなる調査委員会を設置する考えを示した。

帝京大病院の問題が発覚した直後、藤田保健衛生大学病院(愛知県)でも24人の入院患者が感染していたことが判明。
帝京大病院とほぼ同じ時期に菌は検出されたが、対応は大きく分かれた。


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<私的コメント>
「対応は大きく分かれた」た書かれていたので以下の文章に期待しました。
要するに報告された後の保健所などの行政の対応の差について言及されているかと思ったのです。

菌検出は昨夏、多剤耐性と疑わず 帝京大で感染拡大
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2010/9/6

でも書きましたが、藤田保健衛生大学病院(愛知県)の事例で瀬戸保健所はその時どのような対応をとっていたかということなのです。
今回の記事でもそのことには触れていないのが残念です。
「和歌山毒入りカレー事件」の際にも、保健所は最初、とんでもない対応をしました。
報道でも少し書かれましたが大きくはとりあげられませんでした。

マスコミは公的機関に対して一定の遠慮があるのではないのでしょうか。
保健所も普段はのんびりした活動をする公的機関です。
いざという時の危機管理には不安があります。

私も、個人的に届け出た多くの食中毒を「握りつぶされた」苦い経験があります。


愛知県瀬戸保健所
http://www.pref.aichi.jp/iryofukushi/seto-hc/
藤田保健衛生大学病院は愛知県瀬戸保健所豊明保健分室に届け出されたのでしょうか。いずれにしろ耐性菌関連の記載はみあたりません)



帝京大病院で菌が検出されたのは今年2月。
感染者が約10人続き、疑い患者の死亡者3人が確認された5月の連休明けまで何も対策を取らなかった。
ようやく調査委員会を開いたのが7月末。
保健所へ報告したのは菌検出から約7月後の9月2日だった。

一方、藤田保健衛生大では初めて菌が検出された5日後の2月に院内で緊急会議を開いた。
翌日には保健所に報告した。
感染患者への説明もすぐ開始するなど、記者会見後まで患者への説明を行わなかった帝京大とは対照的だ。

藤田保健衛生大の星長清隆病院長によると、検査で疑わしい菌が出たらすぐ報告が上がる。
「感染管理認定看護師も24時間体制をとっており即時対応できる」と説明する。

帝京大病院から近い病院の対応も様々だ。
帝京大病院と同じ特定機能病院の日本大学医学部付属板橋病院の澤充病院長は「行政に報告しなかったことが問題」と話す。


同病院では多剤耐性菌がみつかれば、対策も含めて半月以内には行政に報告するという。

都保健医療公社豊島病院は6日夕、臨時の院内感染予防対策委員会を実施。
手洗いや手袋の交換など基本となる感染予防策を確認し、院内で見つかった耐性菌の情報などを共有した。

帝京大病院の感染防止対策の専従職員は看護師1人だけ。
ほかに医師1人が感染対策の担当だった。
厚労省は院内感染対策スタッフが少ない点を指摘した。ただスタッフが少ないのは帝京大病院だけではない。

厚労省は04年、特定機能病院に院内感染対策専任者を配置するよう求めた。
帝京大病院は条件は満たしていた。  
しかし厚労省研究班が08年、全国515医療機関に実施したアンケートによると、地域で感染症対策の中核を担う病院でも「院内感染の専従時間を持つ職員がいる」と答えたのは34%、感染制御医がいるのも78%にとどまった。

感染対策に専従する医師か看護師どちらか1人がいると診療報酬に加算されるが、それ以上は加算額は増えない。
専任スタッフが6人いる総合病院の専門医は「収益ゼロの部門に置けるのは経営上、余裕があるから。余裕のない病院はたくさんある」という。

 

「ついに出た」息のむ医師 複数の薬効かず 手洗い徹底大切


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ほとんどの抗生剤が効かないNDM1遺伝子を持つ大腸菌が独協医大病院で見つかったというニュースが流れた6日、中部地方感染症専門医は「ついに出たか」と息をのんだ。
2年前に見つかり、日本に迫るのも時間の問題と見られていた。
8月の英医学誌で報じられ、関係者らは警戒を強めていた。

抗生剤と抗生剤が効かない耐性菌とのいたちごっこは何十年も続いてきた。
最後の切り札とされるカルバペネムなどが効かない耐性菌を生み、使える抗生剤がない「スーパー耐性菌」も欧米では見つかっている。

菌がまだ体内に残っているのに、抗生剤の服用をやめたり、抗生剤が効かないウイルス性の風邪に抗生剤を使ったり、といった不適切な使用が、遺伝子の変異の原因と考えられている。

複数の抗生剤が使えない耐性菌は、菌の遺伝子の変異に加え、他の菌が持つ耐性の遺伝子を取り込むことでもできるとされる。
独協医大病院でNDM1が検出された男性が訪れたインドでは、処方箋なしで抗生剤が買えるため不適切な使い方が広がり、そのためにNDM1をつくる大腸菌が広がったのではないかと、欧州の専門家の間で指摘されているという。
NDM1は様々な種類の抗生剤の主要成分を分解してしまう。

医療従事者の手洗いの徹底や手袋の交換などが耐性菌対策の基本だが、守られていない場合が少なくない。
帝京大病院の内部文書でも「(病棟の全患者でなく)耐性菌の患者(に接した場合)のみ手洗いを徹底すれば良いと考えている職員が散見されますが、大きな誤り」と指摘。難しさを示している。

院内感染対策に詳しい東邦大の舘田一博准教授(微生物・感染症学)は「アシネトバクターも、NDM1を持つ大腸菌の場合も、特別な感染対策は必要ない。医療従事者の手洗いといった標準的な対策を徹底すれば対応できる。いかにして徹底するかが大切だ」と話す。

出典 朝日新聞・朝刊 2010.9.7
版権 朝日新聞社









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出典 朝日新聞・朝刊 2010.9.7
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