マイコプラズマ 耐性菌増加

かつては数年おきに流行していたマイコプラズマ肺炎の患者数が、2011年夏以降、過去最多のペースで推移している。

東京都内に住む男子中学生(14)は11年7月のある日、軽いせきと体のだるさがあり、体温は38度を超えた。
深夜まで試験勉強をする日が続き、寝不足による疲れのためかと思っていた。

翌朝には40度まで熱が上がった。
近くの診療所で処方された解熱剤を飲むと一時的に下がるが、しばらくするとまた上がる。

翌日、別の診療所で出された抗菌薬などを飲んでも熱は下がらず、せきや喉の痛みもひどくなるばかり。食欲も徐々になくなっていった。
母親(46)は「薬が全く効かず、原因が何か分からず不安でした」と振り返る。

発症から1週間後、博慈会記念総合病院(東京・足立区)を受診。
マイコプラズマ肺炎と診断された。

肺炎マイコプラズマという細菌によって起こり、子どもの肺炎では肺炎球菌に次いで多い。
乳幼児より年長児が感染しやすい。
症状はおおむね軽いが、熱が下がった後も乾いたせきが3週間以上続くこともある。

同病院の小児科医が診察したところ、男子生徒の胸のエックス線検査で、肺にすりガラス状の影が見られた。
血液検査で炎症反応の数値(CRP)はあまり高くなく、白血球数も正常範囲であることも、この病気の特徴だ。

日本小児呼吸器疾患学会と日本小児感染症学会が11年に作成した診療指針によると、治療はまずマクロライド系という種類の抗菌薬を用いる。

だが近年、薬の効かない耐性菌が徐々に増加。
北里生命科学研究所の調査では、11年に検出した肺炎マイコプラズマ菌のうち耐性菌が86%に上った。

耐性菌にはミノサイクリンという抗菌薬を使う。
ただし、永久歯に生え替わっていない子どもは歯が黄色くなる副作用のおそれがあるため、使用は最小限にするとされている。

男子生徒は診療所でマクロライド系の抗菌薬を処方されていた。
ミノサイクリンの抗菌薬と炎症を抑えるステロイドの点滴を行ったところ、翌日には熱が36度台に下がった。
その後は、抗菌薬の点滴注射を3日間続け、入院から4日後には退院した。

耐性菌が増えており、抗菌薬の使い方を見直す必要がありそうだ。

出典 読売新聞 2012.3.26(一部改変)
版権 読売新聞社

<私的コメント>
ペニシリンのような抗生物質は、細菌の細胞壁を作らせないようにする薬なので、細胞壁のないマイコプラズマには、全く効果はありません。
セフェム系も効きません。
マイコプラズマを疑った場合には、マクロライド系(薬剤名ではクラリス、クラリシッド、ジスロマック)の耐性云々以前に、こういった処方をしないようにするのが医師の務めです。

ちょっと難しくなりますが「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011」から引用

2000年に札幌でマクロライド耐性肺炎マイコプラズマ(macrolide-resistant Mycoplasma pnumoniae)が初めて検出された。
その後、Morozumiらによると、全国の臨床材料において2003年から検出され始め(5.0%)、2004年(12.5%)、2005年(13.8%)、2006年(30.6%)、2007年には40%を超えて年々増加している。
病院ばかりでなく診療所においてもマクロライド耐性肺炎マイコプラズマが増加している。

耐性機序は、23リボゾームRNAドメインVの点変異でマクロライド作用点の変化により親和性が低下したためである。
変異の場所は決まっており、A2063GあるいはCが最も多く、A2064G、C2617CあるいはGが続く。
最も多いA2063Gは、14員環、、15員環、16員環すべてに耐性を示す。
マクロライド耐性肺炎マイコプラズマに対しMIC<2であるのは、テトラサイクリン系薬とニューキノロン系薬のみである、
ただし、テトラサイクリン系薬は肺炎治療後も菌の排出は続いているので、感染源となる可能性がある。ニューキノロン系薬は、今後耐性ができる可能性も懸念される。
マクロライド耐性肺炎マイコプラズマが増加しているのは日本だけと考えられていたが、その後の研究で韓国、フランス、中国、ドイツ、米国でも確認されており、中国においては耐性率が非常に高い。

マクロライド耐性肺炎マイコプラズママクロライドで治療した場合、平均2~3日程度発熱期間が延長するのみで自然治癒する傾向が強い。
また、マクロライド耐性肺炎マイコプラズマによって重症感染症重篤な合併症が増加した報告を認めていないため、現時点ではマクロライド耐性か感受性かが不明時の肺炎マイコプラズマに対する初期治療はマクロライド系薬と考える。


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