骨髄移植、「白血球型」が左右

骨髄移植、「白血球型」が左右 多様さゆえに難しく

白血病の治療法のひとつ骨髄移植への社会の関心が高まっている。
競泳女子選手が白血病を公表したことがきっかけだ。
移植する際は白血球の型を合わせる必要があるが、血液型に比べて多様なため、適合する提供者(ドナー)を探すのは難しい。
再生医療に使うiPS細胞の備蓄事業でも、白血球型が重要な意味を持つ。
最近は、心臓病や糖尿病など病気になりやすい体質を調べる手がかりになることもわかってきた。

一般に、血液型と呼ばれるのは「赤血球の型」だ。
表面にある糖鎖と呼ぶ物質で決まり、A、B、O、AB型がある。
日本人なら、ほぼ10人に4人がA型、3人がO型、2人がB型、1人がAB型だ。
輸血する際は血液型を合わせる必要があり、間違うと赤血球が固まって壊れてしまう。

白血球の型は「HLA(ヒト主要組織適合抗原)」と呼ぶたんぱく質の遺伝子で決まる。
遺伝子は主なものだけでA、B、C、DR、DQ、DPの6つあり、遺伝子解析技術の進歩でさらに増えている。それぞれが数十~数百種類のバリエーションを持つ。
この組み合わせで決まる白血球型は、全部で2万通り以上になるという。

HLAは両親から1組ずつ受け継いだ2セットの遺伝子でできている。
このため、白血球型は親子で違うことが多く、兄弟の間でも4分の1の確率でしか一致しない。
骨髄移植では、A、B、DRの2セット、計6種類が一致する必要がある。
確率は数百分の1~数万分の1とされ、多くの患者がドナー探しに苦労する。

白血球型が多様なのは、ウイルスや細菌などの病原体から体を守る免疫に関係している。
免疫細胞は味方か敵かを見極めて攻撃する。
その際の目印に使っているのがHLAだ。
種類が多ければ、排除すべきウイルスや細菌などを味方と見誤る危険が小さくなる。
人類が病原体と戦って進化する中で、HLAの種類が増え、白血球型の多様性を得たと考えられている。
HLAは20世紀半ばに発見された当初は白血球だけに存在すると考えられてきたが、その後、赤血球を除くほぼ全ての細胞の表面にあるとわかった。
様々な臓器や組織の移植で、白血球型を一致させることが重要だ。合えば拒絶反応を避けられ、そうでないと免疫抑制剤を使って抑える必要が出てくる。

白血球型はiPS細胞を使う再生医療でもカギを握る。
患者の細胞から作ったiPS細胞は準備期間や費用がかさむ。
再生医療に使うため、あらかじめ他人のiPS細胞を備蓄しておく計画が進んでいる。
移植までの期間は1か月程度に短縮でき、1件あたりの治療コストも10分の1以下にできるという。
A、B、DRについて、両親から全く同じ型を受け継いでいる人がまれにいる。
つまり、HLAが2セットではなく1セットしかない。
こうした人の細胞はA、B、DRが1セットだけ一致する人に移植しても「敵」とみなされず、拒絶反応が起きにくい。

こうした特別な型のiPS細胞を75種類そろえれば、日本人全体の8割をカバーできるという。
だが探すのは大変で、まだ3割ほどしか達成できていない。
白血球型は種類の多様さから、人類の進化や移動の足跡をたどる研究でも使われた。
例えば、日本人の場合、最も遺伝的に近いのは朝鮮半島の韓国人だ。
中国のチベット中国東北部の人たちとも関連が強い。
ゲノムの解析が主流となり、最近は使われなくなった。
だが病気に対するリスクを比べるためにも、人種間で白血球型の違いを知ることは重要だ。
リウマチや胆管炎、風邪薬の副作用も、特定の白血球型を持つ人が発症しやすい。
昼間に耐えられないほど強い眠気に襲われる「ナルコレプシー」を調べると、日本人では患者のほぼ全員が特定の白血球型を持っている。

康維持や病気のリスクを知る手がかりになるかもしれない。
研究が進めば、健康管理のために白血球型の重要性が高まるとみる。
近い将来、健康管理のために、誰もが白血球型を調べているような時代が来るのかもしれない。

白血病
血液で起こるがんの一種で、血液中の白血球が異常に増え、血液をつくる機能や病原体から身を守る免疫の働きが弱まる。
リンパ球になる細胞ががん化した場合を「リンパ性」、それ以外の血液細胞ががん化した場合を「骨髄性」という。
また、がん細胞の増殖するスピードによって急性と慢性がある。
慢性の方が症状は軽い。
 
白血病は19歳以下で発症するがんの中では最も多い。
骨髄性白血病の場合、急性の患者は10万に2~3人、慢性は10万人に1人といわれる。
抗がん剤や骨髄移植などの治療法があり、白血病の種類によっては9割以上の患者が治癒する。

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.3.8