難治性の白血病への骨髄移植

「骨髄移植できない?」 難治性の白血病、新薬登場で光

これまでの治療薬が効きにくいタイプの急性骨髄性白血病(AML)向けに、新しい分子標的薬が相次いで承認された。

骨髄などの造血幹細胞移植も、合併症を予防しやすくなり、治療の選択肢が広がっている。

 

東京都八王子市に住むOさん(60)は2016年、人間ドックがきっかけで精密検査を受け、急性骨髄性白血病とわかった。

同時に「FLT3」という遺伝子に変異があり、治療が難しいタイプであることも告げられた。

 

「俺ダメなんだ。移植もできないなんて」とショックを受けたが、この遺伝子変異がある患者を対象に、分子標的薬「FLT3阻害剤」の治験を医師に紹介された。

治験に参加して薬を使ったところ、白血病細胞が激減。

骨髄移植できる状態になり、同年5月に骨髄移植を受けた。

 

昨年10月、合併症によって再び移植を受け、2ヵ月の入院を経て現在は通院しながら経過を観察中だ。

Oさんは「この薬のおかけで移植できる状態になった。ゴルフができるよう体力を回復させたい」と話す。

 

AMLの治療はまず、複数の抗がん剤を使い、骨髄中に白血病細胞がなくなり白血球や赤血球などの数が正常範囲になる「寛解」を目指す。

その後、半数近くの人は骨髄や臍帯血などの造血幹細胞を移植する2本立てで治療をする。

 

OさんのようにFLT3遺伝子に変異があるのは、AML患者の2~3割とされる。

この変異があると、白血病細胞を無制限に増やすスイッチが入ってしまう。

これまでは変異がある場合、抗がん剤を使っても、骨髄移植ができる状態まで白血病細胞を抑えることが難しかった。

 

だが、18~19年にかけて、国内でFLT3阻害剤のギルテリチニブとギザルチニブが承認された。

白血病細胞を無制限に増やす信号を妨げる作用があるとされ、臨床試験では約3~5割が「寛解」。

移植につながったという。

 

FLT3阻害剤は現時点ではこれだけで治癒する、という薬ではない。

造血幹細胞移植に橋渡しできる可能性が高まり、患者にとって希望をつなげる薬と位置づけられている。

従来の抗がん剤治療と比べて副作用も少ないとされ、高齢者も生活の質を維持して治療を継続できる。

 

完全一致でないドナー増加

急性骨髄性白血病の場合、薬だけで「治る」のは約10%。

化学療法で「寛解」まで白血病細胞を減らした後、ほかの人から全ての血液の元になる造血幹細胞を移植して完治を目指す。

 

兄弟姉妹や親子など血縁者間や、骨髄バンクなどを通じた非血縁者間での造血幹細胞移植は、年に約3700件(17年)に及ぶ。

20年前と比べて3倍以上に増えている。

おもな理由は、臍帯血バンクの充実や、白血球の型であるHLAが半分だけ一致した血縁者間での「ハプロ移植」の普及だ。

 

国内では、HLAが完全に一致した血縁者の提供者(ドナー)が見つかる可能性は25%前後とされる。

以前はドナーがおらず移植できないこともあったが、現在はたいてい見つかる。

 

一方、ハプロ移植では、移植したドナーの細胞が患者の体を攻撃して、肝臓や肺などに炎症が起こる「移植片対宿主病」(GVH病)が生じる可能性が高まることが課題だった。

近年、移植後にシクロフォスファミドなどの抗がん剤を使ってGVH病を予防する方法が登場した。

このためハプロ移植は10年以降急増し、現在は年に約500件実施されているという。

 

移植後の生存率も上がり、治癒を目指せる人が増えている。   

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.1.22