免疫治療薬がもたらした福音

免疫治療薬がもたらした福音

ノーベル生理学・医学賞京都大学本庶佑特別教授に授与される理由は「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」だ。
この研究が「オプジーボ」など新しいタイプの免疫治療薬の開発につながったから、多くのがん患者に福音をもたらしたことになる。

免疫細胞は、細菌やウイルスなどの侵入者のほか、体内で生まれたがん細胞も異物として排除する。
しかし、その働きが強くなりすぎると、アレルギーやリウマチといった自己免疫疾患になりやすくなる。
逆に、免疫が過敏なアレルギー患者にはがんも少ないというデータもある。
免疫系には、その働きが過剰とならないように自ら抑制する仕組みが備わっている。
これを「免疫チェックポイント機構」と呼ぶ。
この仕組みを悪用し、免疫細胞の攻撃にブレーキをかける能力をがん細胞は持っている。
がんが進むと免疫側の攻撃力が低下するのはこのためだ。
オプジーボは、かけられたブレーキを解除させて、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を再開させる。
その働きから、オプジーボに代表される薬は「免疫チェックポイント阻害薬」と総称される。
オプジーボは当初、皮膚がんの一種の悪性黒色腫については保険適用となったが、年間3500万円近い超高額な薬価が大きな話題となった。
その後、肺、胃、腎臓などのがんでも保険が利くようになり、薬価も現在は年間1千万円以下まで引き下げられた。
肺がんの場合、オプジーボによって腫瘍が半分に縮小する確率は2割ほどだ。
それでも従来の抗がん剤より効き目が長く、全身に転移した病巣が完全に消えて3年以上元気に暮らしている患者もいる。
かつては転移は死を意味したが、免疫チェックポイント阻害剤の登場によって、完治の可能性も出てきたといえる。
もっとも、免疫にかかっていたブレーキがはずれてアクセル全開の状態になるから、アレルギー反応や自己免疫疾患のリスクが高くなる。
実際、オプジーボでは、間質性肺炎や重症筋無力症、心筋炎などを高い頻度で発症するから注意も必要だ。

執筆 東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2018.12.5