がん患者、循環器病もケア 

「腫瘍循環器学」  がん患者、循環器病もケア 予防・並行治療の動き

がん治療の進展で生存率が高まる一方、高齢化に伴って、心不全などの循環器病を合併する例が増えている。

抗がん剤など循環器に悪影響を及ぼすがん治療も少なくない。

がんの治療と循環器病の予防や治療を並行し、健康状態をよりよく保つ「腫瘍循環器学」の取り組みが始まっている。

 

東京都内の女性(74)は2018年12月、悪性リンパ腫と診断され、抗がん剤治療を始めた。

もともと心臓の働きが悪くて治療薬をのんでおり、心臓の働きを表す左室駆出率(LVEF)は通常55%以上のところ、約50%だった。

 

悪性リンパ腫の治療に使う5種類の抗がん剤のうち、ドキソルビシンなどは心筋細胞に悪影響がある。

通常は、点滴後に2週間休むサイクルを繰り返すが、女性の場合は、1週目に抗がん剤を点滴して3週間休むサイクルを6~8回続けることにした。

 

3回目直前の今年2月下旬、LVEFが20%に低下し、重い心不全になった。

抗がん剤治療を中止し、心臓への負担が軽い分子標的薬リツキシマブだけを5月中旬まで続けた。

幸い、がんがすべて消える「完全奏効」状態になったが、心機能は低いままだった。

担当医に専門治療ができる病院の受診を勧められた。

<コメント>

この記事には、どのような病院で治療したか、また入院なのか外来での治療なのかが記載されていません。

無床診療所での外来での治療は考えられないわけですから、一般病院かがん専門病院(東京なら国立がんセンター 中央病院やがん研有明病院など)の外来か入院ということになります。

後者のがん専門病院の場合には、糖尿病や循環器疾患を診療する内科専門医が手薄であるという実態があります。

「がん」以外のなんらかの内科的疾患がすでにある、または入院中などに発病した場合には治療に一定の制約が出ることになります。

 

8月から、東京大病院(東京都文京区)の腫瘍循環器外来を受診し始めた。心不全の治療薬を増やし、LVEFは50%以上に改善した。

<コメント>

どのような素晴らしい治療がされたのでしょうか。

 

女性の長女(48)は「リンパ腫がよくなったのに心臓が悪くなり生活に支障が出たら元も子もない。万が一、再発した時にも抗がん剤治療が受けられるよう、心臓の状態を改善しておいてほしい」と話す。

 

近年、腫瘍循環器外来やがん心臓外来などを開設する病院が増えている。

昨年は、循環器やがんの専門医らによる日本腫瘍循環器学会も発足した。

背景には、がんの治療成績の向上がある。

治療成績が悪い時代は救命第一で、心臓に悪影響がある抗がん剤でも大量投与せざるを得なかった。

最近はがんになっても治る人や長生きする人が増え、循環器への副作用を減らす取り組みが重要になってきている。

 

高齢化で循環器系のが衰えた患者が増えている。

がん治療と並行して心臓や血管の状態に注意を払い、循環器に影響が見つかった場合は早めに治療することで、重症化が防ぐことが期待される。

 

■ 数年後の合併症も、検査を

心臓に悪影響を及ぼしやすい抗がん剤の代表は、ドキソルビシンなど「アントラサイクリン系」だ。

がん細胞を攻撃する一方で、心筋細胞も傷める。

累積投与量が増えると心不全のリスクが高まる。

 

がん細胞だけを攻撃するとされる分子標的薬でも、たとえば、乳がんの治療に使うトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)は、心不全のリスクを高める。攻撃の標的となるたんぱく質「HER2」が、心臓の細胞にもあるからだ。

 

ニボルマブ(商品名オプジーボ)など免疫チェックポイント阻害剤は、がんを攻撃する免疫が強化される一方、自己免疫病のような副作用として、重い心筋炎が起こることもある。

 

がん患者はもともと血栓ができたり、出血したりしやすい。

高血圧や糖尿病があると、治療で循環器に悪影響が出やすいという。

 

患者ごとに、循環器の状態と治療歴を考慮し、治療計画を立てることが重要となる。

 

抗がん剤などによる心不全は治療後、何年も経ってから起きることもある。がんの治療中はもちろん、終了後も循環器の検査を継続して受けたい。

<コメント>

患者さんの心構えも大切かも知れませんが、まずは抗がん剤を使用する医療側ががん治療薬の「心毒性」についての意識と知識をしっかり持つことが大切になります。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2019.10.30